天空(そら)に咲く花~あのひとに届くまで~
第4章 第二話〝茜空〟・友達
お智は器量は並だが、くるくるっとした瞳が小鳩を思わせる愛敬のある娘だ。何より、朗らかで人当たりが良い。お智は来月の末には蝋燭問屋に嫁ぐことが決まっているが、亭主になる男もまた、花月の客の一人であった。お智の朗らかな気性とくるくるとよく働く姿に惹かれたらしい。
お智が嫁ぐ蝋燭問屋は日本橋では少しは名の知れたお店であった。大店とはいかなくとも、中規模どころの手堅い商いをしていると評判の店だ。若旦那眞太郎の両親はいまだ健在だと聞くが、お智であれば、舅や姑とも上手くやってゆくだろうと思う。
その点、お智と八重は対照的である。内気で自分の考えていることの十分の一も上手に相手に伝えられず、いつも要らぬ誤解ばかりされてしまう八重であった。
現に、木檜藩の上屋敷でも、八重の立場は微妙であった。若君唯一のお気に入りの八重にあからさまに意地悪をする腰元はいない。しかし、朋輩、あるいは先輩たちが陰で八重を〝陰気で自分たちとはろくに話しもしないくせに、若君や殿に取り入るのは上手な新参者〟と悪く言っていることは知っている。
何もかもが反対のお智と大の仲良しになったのは、かえってあまりにも違いすぎるから良かったのか、それとも、お智の物怖じせず何でも受け容れてしまう性格ゆえだったのか、多分、その両方だったのだろうと八重は考えている。
お智の家は花月からほど近い場所にあった。が、いざ訪ねてきても、実際に声をかける勇気まではなく、八重は表に突っ立ったまま、かれこれ四半刻近くこんな状態が続いている。
お智が嫁ぐ蝋燭問屋は日本橋では少しは名の知れたお店であった。大店とはいかなくとも、中規模どころの手堅い商いをしていると評判の店だ。若旦那眞太郎の両親はいまだ健在だと聞くが、お智であれば、舅や姑とも上手くやってゆくだろうと思う。
その点、お智と八重は対照的である。内気で自分の考えていることの十分の一も上手に相手に伝えられず、いつも要らぬ誤解ばかりされてしまう八重であった。
現に、木檜藩の上屋敷でも、八重の立場は微妙であった。若君唯一のお気に入りの八重にあからさまに意地悪をする腰元はいない。しかし、朋輩、あるいは先輩たちが陰で八重を〝陰気で自分たちとはろくに話しもしないくせに、若君や殿に取り入るのは上手な新参者〟と悪く言っていることは知っている。
何もかもが反対のお智と大の仲良しになったのは、かえってあまりにも違いすぎるから良かったのか、それとも、お智の物怖じせず何でも受け容れてしまう性格ゆえだったのか、多分、その両方だったのだろうと八重は考えている。
お智の家は花月からほど近い場所にあった。が、いざ訪ねてきても、実際に声をかける勇気まではなく、八重は表に突っ立ったまま、かれこれ四半刻近くこんな状態が続いている。