天空(そら)に咲く花~あのひとに届くまで~
第4章 第二話〝茜空〟・友達
お智は稼業を格別嫌っていたわけではないようだが、一年前に良い人ができてからは、流石に見世に出ることを躊躇していたらしい。客の中には茶酌女の尻や胸をさりげなく触ったりする助平な男もいて、相手の若旦那もまた、お智をそのような場に出したくはなかった。
が、新しい茶酌女を雇うのは懸かりも増すので、甚助は娘を女中代わりにして相変わらず見世に出していた。そんな父を皮肉って、お智自身が言った言葉だ。
出てきたお智は、八重の側にちょこんと立つ少年を見て、眼を瞠った。
「どうしたの、お弥栄ちゃん」
弥栄というのは、八重の元々の名前である。両親が名付けてくれたのは〝弥栄〟であったが、お屋敷奉公するに当たり、〝八重〟と雅な感じが出るようにと改めたのだ。
「この子は、一体―」
何か言いたげなお智に、八重は素早く耳許で囁いた。
「今は何も言わないで」
八重と清冶郞は奥の居間に通された。
ほどなくお智の母おみつが挨拶に出てきて、相変わらずちんまりと座る清冶郞に眼を細め、
「お可愛らしい坊ちゃんですこと」
と、お愛想を言った。
もっとも、清冶郞は肌理も細やかで、色白、瞳は濡れて輝くようで、少女とも見紛う可憐な美少年である。整いすぎるほど整った容貌は、父嘉亨ゆずりであろうか。ゆえに、おみつの言葉が満更、その場限りの世辞だけとはいえない。また、清冶郞の母―今は離縁して実家に帰っているという嘉亨の前の奥方尚姫も世に聞こえた美貌であった。
美男美女を両親に持つ清冶郞は、八重が見ても惚れ惚れとするほど愛らしい。もっとも、器量はあくまでも平凡すぎるほど平凡な八重にとっては、少々妬ましいことでもあるが。
が、新しい茶酌女を雇うのは懸かりも増すので、甚助は娘を女中代わりにして相変わらず見世に出していた。そんな父を皮肉って、お智自身が言った言葉だ。
出てきたお智は、八重の側にちょこんと立つ少年を見て、眼を瞠った。
「どうしたの、お弥栄ちゃん」
弥栄というのは、八重の元々の名前である。両親が名付けてくれたのは〝弥栄〟であったが、お屋敷奉公するに当たり、〝八重〟と雅な感じが出るようにと改めたのだ。
「この子は、一体―」
何か言いたげなお智に、八重は素早く耳許で囁いた。
「今は何も言わないで」
八重と清冶郞は奥の居間に通された。
ほどなくお智の母おみつが挨拶に出てきて、相変わらずちんまりと座る清冶郞に眼を細め、
「お可愛らしい坊ちゃんですこと」
と、お愛想を言った。
もっとも、清冶郞は肌理も細やかで、色白、瞳は濡れて輝くようで、少女とも見紛う可憐な美少年である。整いすぎるほど整った容貌は、父嘉亨ゆずりであろうか。ゆえに、おみつの言葉が満更、その場限りの世辞だけとはいえない。また、清冶郞の母―今は離縁して実家に帰っているという嘉亨の前の奥方尚姫も世に聞こえた美貌であった。
美男美女を両親に持つ清冶郞は、八重が見ても惚れ惚れとするほど愛らしい。もっとも、器量はあくまでも平凡すぎるほど平凡な八重にとっては、少々妬ましいことでもあるが。