天空(そら)に咲く花~あのひとに届くまで~
第4章 第二話〝茜空〟・友達
八重は手を付いておみつに挨拶をし、手土産に持参した随明寺の桜団子をおみつに手渡した。ここに来る前、随明寺に立ち寄った八重と清冶郞である。
随明寺は和泉橋町の外れにあり、黄檗宗の名刹である。開基は浄徳大和尚で、月に一度は境内に露店が建ち並ぶ、縁日市が盛大に催される。生憎と今日はその日ではなく、広い境内はしんとして、訪れる者の姿もまばらであった。
桜団子は桜餅と並んで随明寺の名物である。山門から続く長い石段を降りきった先の茶店で売っているのだが、老婆が一人で作っているため、朝早くゆかねば売り切れるほどの人気だ。殊に桜餅の方は卯月の花見時分しかない限定商品で、普段は人気のない門前道の長蛇の列ができるというほどである。
おみつは愛想よく礼を言うと、
「折角来たんだから、ゆっくりとしていって下さいね」
と桜団子を下げて出ていった。
入れ替わるようにお智が入ってくる。
手には小さな丸盆を持ち、その上には湯呑みが三つと先ほどの桜団子が菓子器に盛られていた。いつもなら、通いのおときという女中が運んでくるので訝しく思っていると、おときは今、年老いた母親の調子が悪いとかで、休みを取っているという。
「お弥栄ちゃん、もしかして、この子は」
お智が意味ありげに清冶郞を見ると、八重は両手を合わせ拝む仕種をして見せた。
「お願い、誰にも言わないで。親戚の子ということにしておいて欲しいの」
お智は存外に頭の回転が良い。清冶郞の身なりや気品のある居住まいから察して、ただの町家の子どもではないと見当をつけたのだろう。八重が木檜藩の世継の若さまの相手役として上がったことは、お智も知っているのだ。
随明寺は和泉橋町の外れにあり、黄檗宗の名刹である。開基は浄徳大和尚で、月に一度は境内に露店が建ち並ぶ、縁日市が盛大に催される。生憎と今日はその日ではなく、広い境内はしんとして、訪れる者の姿もまばらであった。
桜団子は桜餅と並んで随明寺の名物である。山門から続く長い石段を降りきった先の茶店で売っているのだが、老婆が一人で作っているため、朝早くゆかねば売り切れるほどの人気だ。殊に桜餅の方は卯月の花見時分しかない限定商品で、普段は人気のない門前道の長蛇の列ができるというほどである。
おみつは愛想よく礼を言うと、
「折角来たんだから、ゆっくりとしていって下さいね」
と桜団子を下げて出ていった。
入れ替わるようにお智が入ってくる。
手には小さな丸盆を持ち、その上には湯呑みが三つと先ほどの桜団子が菓子器に盛られていた。いつもなら、通いのおときという女中が運んでくるので訝しく思っていると、おときは今、年老いた母親の調子が悪いとかで、休みを取っているという。
「お弥栄ちゃん、もしかして、この子は」
お智が意味ありげに清冶郞を見ると、八重は両手を合わせ拝む仕種をして見せた。
「お願い、誰にも言わないで。親戚の子ということにしておいて欲しいの」
お智は存外に頭の回転が良い。清冶郞の身なりや気品のある居住まいから察して、ただの町家の子どもではないと見当をつけたのだろう。八重が木檜藩の世継の若さまの相手役として上がったことは、お智も知っているのだ。