
天空(そら)に咲く花~あのひとに届くまで~
第4章 第二話〝茜空〟・友達
清冶郞は病弱なだけではない。掛かり付けの医者からも長くは生きられまいと宣告されるほどの難病にかかっている。周りの者たちは清冶郞にそのことを告げてはいないが、利発な若君は、既にそのことを敏感に察していた。この頃では殆どなくなったが、八重がお屋敷に上がったばかりの頃には、夜半、
―死に神に連れてゆかれる。
と悪夢を見ては、うなされ泣いていた清冶郞であった。
若君の生命の焔がいつまで保つのかは判らないけれど、できれば健やかに生い立って無事、木檜のお家を継いで欲しいと切に願う八重である。そのためには、微力ながら、神仏頼みでも何でもしようと心に決めているのだ。己れの色恋だけで清冶郞の許を離れることなど、できようはずもない。
物想いに耽る八重を、お智が気遣わしげに見ている。そこで、八重はハッと我に返った。
お智は八重にとっては、たった一人、親友と呼べる大切な存在だ。裁縫教室は年の近い少女たちが多く、それなりに親しくはなったけれど、お智のように心から打ち解けられた友達は他にいなかった。
これまで八重は頑なに心を閉ざしてきた。それはわざとそうしていたとか、人付き合いが嫌いだからとかいうよりは、自分の気持ちをどうやって表現したら良いか判らないからだ。言うなれば、人とどう接したら良いかが判らなくて、自分から心に固い殻を覆ってきた。
誰もその殻を破ってまでは、素顔の八重と向き合ってくれようとする人しいなかった。その中で、唯一、お智だけが八重の殻を取り除き、心を開かせてくれたのだ。八重は人間が嫌いなのではなく、単に人付き合いが苦手なだけだった。そのことで変な風に誤解されてきた八重だったが、お智は難なくその殻を破り、八重と親友になった。お智にだけは、八重は何でも話せたし、普通に向き合うことができた。
―死に神に連れてゆかれる。
と悪夢を見ては、うなされ泣いていた清冶郞であった。
若君の生命の焔がいつまで保つのかは判らないけれど、できれば健やかに生い立って無事、木檜のお家を継いで欲しいと切に願う八重である。そのためには、微力ながら、神仏頼みでも何でもしようと心に決めているのだ。己れの色恋だけで清冶郞の許を離れることなど、できようはずもない。
物想いに耽る八重を、お智が気遣わしげに見ている。そこで、八重はハッと我に返った。
お智は八重にとっては、たった一人、親友と呼べる大切な存在だ。裁縫教室は年の近い少女たちが多く、それなりに親しくはなったけれど、お智のように心から打ち解けられた友達は他にいなかった。
これまで八重は頑なに心を閉ざしてきた。それはわざとそうしていたとか、人付き合いが嫌いだからとかいうよりは、自分の気持ちをどうやって表現したら良いか判らないからだ。言うなれば、人とどう接したら良いかが判らなくて、自分から心に固い殻を覆ってきた。
誰もその殻を破ってまでは、素顔の八重と向き合ってくれようとする人しいなかった。その中で、唯一、お智だけが八重の殻を取り除き、心を開かせてくれたのだ。八重は人間が嫌いなのではなく、単に人付き合いが苦手なだけだった。そのことで変な風に誤解されてきた八重だったが、お智は難なくその殻を破り、八重と親友になった。お智にだけは、八重は何でも話せたし、普通に向き合うことができた。
