天空(そら)に咲く花~あのひとに届くまで~
第4章 第二話〝茜空〟・友達
そのただ一人の友の幸せを、自分は心から祝福できないのだろうか。惚れた男との恋を実らせた友に嫉妬する我が身を、八重は醜いもののように思い、自己嫌悪に陥った。
お智は八重の心中なぞ知らず、優しく微笑んだ。
「それにしても愕いたわ。大人しいけど、そういえば、お弥栄ちゃんは昔っから、思い切ったことをする子だったものね」
くすりと笑うと、悪戯っぽい顔になった。
「ほら、憶えてるかしら。確か、私が裁縫のお師匠さんのところに通い始めてまもない頃のこと、おっきな犬に追いかけられたことがあったじゃない」
その話は、お智が好んでよくする想い出話の一つであった。
八重が裁縫教室に通い始めたのは九つのときだが、お智は遅れること三年、十二で始めた。お智とは直に打ち解けた弥栄はいつも帰る方向が一緒だったこともあり、途中までは並んで帰った。そんなある日。
いつもの通り道に、大きな犬が堂々と寝そべっていた。どうやら、和菓子屋の女隠居の一人住まいで飼っている犬らしい。
お智はその大きな図体を見ただけで怯え、
―遠回りして帰ろうよ。
と、囁いた。
しかし、八重は平気な顔でお智ににっこりと笑った。
―大丈夫だよ。
尻込みするお智の手をしっかりと掴み、八重は一人でさっさとその犬の前を通り過ぎようとした。そのときである。
犬が眼を開け、真ん前を通り過ぎる子ども二人に気付いた。犬はパッと飛び起きて、尻尾を振りながら追いかけてくる。
お智はわっと泣きながら、駆け出した。犬はお智と追いかけっこをしているつもりになったようで、お智が逃げれば逃げるほど、歓んで追いかけてきた。
お智は八重の心中なぞ知らず、優しく微笑んだ。
「それにしても愕いたわ。大人しいけど、そういえば、お弥栄ちゃんは昔っから、思い切ったことをする子だったものね」
くすりと笑うと、悪戯っぽい顔になった。
「ほら、憶えてるかしら。確か、私が裁縫のお師匠さんのところに通い始めてまもない頃のこと、おっきな犬に追いかけられたことがあったじゃない」
その話は、お智が好んでよくする想い出話の一つであった。
八重が裁縫教室に通い始めたのは九つのときだが、お智は遅れること三年、十二で始めた。お智とは直に打ち解けた弥栄はいつも帰る方向が一緒だったこともあり、途中までは並んで帰った。そんなある日。
いつもの通り道に、大きな犬が堂々と寝そべっていた。どうやら、和菓子屋の女隠居の一人住まいで飼っている犬らしい。
お智はその大きな図体を見ただけで怯え、
―遠回りして帰ろうよ。
と、囁いた。
しかし、八重は平気な顔でお智ににっこりと笑った。
―大丈夫だよ。
尻込みするお智の手をしっかりと掴み、八重は一人でさっさとその犬の前を通り過ぎようとした。そのときである。
犬が眼を開け、真ん前を通り過ぎる子ども二人に気付いた。犬はパッと飛び起きて、尻尾を振りながら追いかけてくる。
お智はわっと泣きながら、駆け出した。犬はお智と追いかけっこをしているつもりになったようで、お智が逃げれば逃げるほど、歓んで追いかけてきた。