天空(そら)に咲く花~あのひとに届くまで~
第4章 第二話〝茜空〟・友達
しばらく追いかけっこをするお智と犬を眺めていた八重は、ふと思いついて懐から菓子を取り出した。懐紙に包んだそれは、珍しく裁縫の師匠がお八ツだよと言って出してくれた饅頭であった。
八重が饅頭の残りを差し出すと、犬はすぐに近付いてきて、八重の手から直接、饅頭を食べた。犬に大きな舌でぺろぺろと舐められ、八重はくすぐったさに笑った。
そんな八重を、傍らでお智は信じられないといった表情で見ていたものだ。
果たして、その犬は饅頭を平らげると、すっかりと大人しくなり、二人の子どもにはもう興味を失ってしまったかのように再びごろりと寝転んで眼を閉じてしまった。
「あのときのお智ちゃんの怖がりようったら、なかった。いつもは、やんちゃなガキ大将や男の子たちから私を庇ってくれるのはお智ちゃんなのに、たかが犬一匹であんなに大騒ぎするんだもの、最初は信じられなかったのよ」
八重がそのときのお智の泣き顔を思い出して笑いながら言うと、お智もまたつられたように笑った。
「たかが犬って言っても、ほら、大の大人でも抱えられないほどの大きな犬だったでしょ。今、あれと同じ大きさの犬を見たとしても、やっぱり、私、遠回りしようって言うと思うわよ?」
「そうなの? お智ちゃんの良い人は、案外、お智ちゃんのそんな怖がりなところは知らないんでしょうね」
八重が調子を合わせる。
「そうねぇ。眞太郎さんは、知らないでしょうね。でも、少しくらいはお互いに知らない部分を残してた方が良いのよ。だって、あまりにも最初から何でも知りすぎてたら、すぐに飽きちゃうでしょう。眞太郎さんだって、強面なくせに、昔から案外泣き上戸だなんて、この間、向こうに遊びにいった時、お義母さんが話してたしね」
八重が饅頭の残りを差し出すと、犬はすぐに近付いてきて、八重の手から直接、饅頭を食べた。犬に大きな舌でぺろぺろと舐められ、八重はくすぐったさに笑った。
そんな八重を、傍らでお智は信じられないといった表情で見ていたものだ。
果たして、その犬は饅頭を平らげると、すっかりと大人しくなり、二人の子どもにはもう興味を失ってしまったかのように再びごろりと寝転んで眼を閉じてしまった。
「あのときのお智ちゃんの怖がりようったら、なかった。いつもは、やんちゃなガキ大将や男の子たちから私を庇ってくれるのはお智ちゃんなのに、たかが犬一匹であんなに大騒ぎするんだもの、最初は信じられなかったのよ」
八重がそのときのお智の泣き顔を思い出して笑いながら言うと、お智もまたつられたように笑った。
「たかが犬って言っても、ほら、大の大人でも抱えられないほどの大きな犬だったでしょ。今、あれと同じ大きさの犬を見たとしても、やっぱり、私、遠回りしようって言うと思うわよ?」
「そうなの? お智ちゃんの良い人は、案外、お智ちゃんのそんな怖がりなところは知らないんでしょうね」
八重が調子を合わせる。
「そうねぇ。眞太郎さんは、知らないでしょうね。でも、少しくらいはお互いに知らない部分を残してた方が良いのよ。だって、あまりにも最初から何でも知りすぎてたら、すぐに飽きちゃうでしょう。眞太郎さんだって、強面なくせに、昔から案外泣き上戸だなんて、この間、向こうに遊びにいった時、お義母さんが話してたしね」