テキストサイズ

天空(そら)に咲く花~あのひとに届くまで~

第4章 第二話〝茜空〟・友達

 それに、お智には隠し事はしたくなかったのだ。
「お智ちゃん、その話はもう止めましょう、私は本当に大丈夫だから」
 八重の言葉と傍らの清冶郞を気遣うような素振りに、お智は心得たように頷いた。
「そうね。折角久しぶりに逢ったんだもの。もっと愉しい話をしましょ」
 こんなところも、お智のお智らしいところだ。相手が厭がる話題に深入りしたり、追及したりはしない。相手を思いやることのできる娘なのだ。空気を読むことができるのは、お嬢さま育ちの八重と異なり、水茶屋という水商売の家に生まれ育ったゆえか。
 いや、恐らくは、お智という娘が生来持つ優しさなのだろう。
「こちらの坊ちゃんは何と仰(おつしや)るの?」
 お智が優しく問うと、清冶郞がうす紅くなった。どうやら、緊張も極度に達したらしい。
「わ、私は」
「清冶郞さんとおっしゃるのよ」
 脇から八重が言い添えると、お智が菓子器から一本、団子を手に取った。
「どうぞ、召し上がれ」
「す、済まぬ」
 清冶郞はそのひと言だけで、ただの少年ではない返答をしながら、這々の体で団子を受け取った。
 それでも、まだ食べずにもじもじしているのに、お智が重ねて言った。
「さあ、召し上がれ」
 促され、何口か頬張った清冶郞だが、いきなり団子を畳に落とし、真っ赤になった。
「まあ、大変」
 お智が叫び声を上げ、団子を拾った。お智はさりげなく団子を懐紙に包み、懐に入れた。
 清冶郞が恥ずかしさのあまり、うつむいている。お智はわざと話題を変えた。
「お弥栄ちゃん、その後、あの招き猫はどうなったの?」

ストーリーメニュー

TOPTOPへ