天空(そら)に咲く花~あのひとに届くまで~
第4章 第二話〝茜空〟・友達
八重が慌てて訂正すると、清冶郞は満足げに頷いている。
「ほら、今もこうして持っているぞ」
得意気に懐から招き猫を出して見せる清冶郞に微笑みかけながら、お智はもう堪えきれないといった顔で、吹き出したいのを我慢しているようだ。
八重は眼顔で〝笑わないで〟と懇願する。
お智はそれに小さく頷き、八重に改まった調子で言った。
「それにしても、お八重ちゃん、しばらく見ない中に随分ときれいにったのねえ。すっかり垢抜けちまって、私がよく知ってるお弥栄ちゃんじゃないみたいよ。やっぱり、御殿奉公して、お武家さまの世界の水に洗われたってことかしらね」
「馬鹿なこと言わないで。私は相変わらず昔のままで、冴えないのに」
今日の八重はぼかし染めの薄紅色の地に女郎花、撫子が繊細に描かれた小袖を纏っている。帯は〝竜田川〟、流水に紅葉を散らした銀地の豪奢なものである。盛夏の今には少し早いが、暑い季節に秋草を描いた着物を着ることで、気分的に涼を感じるという趣向だ。
屋敷内で身に纏うよりは、これでも少しは地味な作りにしてはいるものの、やはり町家の娘という雰囲気ではない。
「そうだ、私もいつも言っているではないか、八重はきれいだと私も思うぞ」
清冶郞が突然宣言するように言い、いきなりの言葉に、今度は八重が頬を染める番であった。
大真面目な清冶郞と紅くなった八重を交互に見て、お智が明るい笑い声を上げる。だが、そういうお智こそが以前よりはよほど艶めいて見えるようになったと、八重は口には出さないが、そう思った。
「ほら、今もこうして持っているぞ」
得意気に懐から招き猫を出して見せる清冶郞に微笑みかけながら、お智はもう堪えきれないといった顔で、吹き出したいのを我慢しているようだ。
八重は眼顔で〝笑わないで〟と懇願する。
お智はそれに小さく頷き、八重に改まった調子で言った。
「それにしても、お八重ちゃん、しばらく見ない中に随分ときれいにったのねえ。すっかり垢抜けちまって、私がよく知ってるお弥栄ちゃんじゃないみたいよ。やっぱり、御殿奉公して、お武家さまの世界の水に洗われたってことかしらね」
「馬鹿なこと言わないで。私は相変わらず昔のままで、冴えないのに」
今日の八重はぼかし染めの薄紅色の地に女郎花、撫子が繊細に描かれた小袖を纏っている。帯は〝竜田川〟、流水に紅葉を散らした銀地の豪奢なものである。盛夏の今には少し早いが、暑い季節に秋草を描いた着物を着ることで、気分的に涼を感じるという趣向だ。
屋敷内で身に纏うよりは、これでも少しは地味な作りにしてはいるものの、やはり町家の娘という雰囲気ではない。
「そうだ、私もいつも言っているではないか、八重はきれいだと私も思うぞ」
清冶郞が突然宣言するように言い、いきなりの言葉に、今度は八重が頬を染める番であった。
大真面目な清冶郞と紅くなった八重を交互に見て、お智が明るい笑い声を上げる。だが、そういうお智こそが以前よりはよほど艶めいて見えるようになったと、八重は口には出さないが、そう思った。