天空(そら)に咲く花~あのひとに届くまで~
第5章 母子草
それも当然といえば、当然ではある。仮にも三万石の大名家の世継を腰元が許可も得ぬまま連れ出すとは、下手をすれば罪に問われることになる。今回は春日井の特別の計らいで事は表沙汰になることもなく、隠密裡に済まされたが。
「どうした、八重、何か酷いことを言われたのか?」
清冶郞は自分が無理を通したことで八重が春日井に叱られ、相当に責任を感じているようだ。しかし、清冶郞を止められなかった責任は、やはりお付きの八重にある。
八重は淡く微笑んだ。
「いいえ、悪いのは八重にございますから」
「春日井は、あの鬼婆ァは何と申したのだ?」
と、清冶郞はそれこそ世継の若君としては、いささかどころか、かなり品のない物言いをする。
「―今度、このようなことを致せば、即刻も暇を出すと仰せになりました」
その途端、清冶郞の可愛らしい面が見る見る強ばった。
「何と、春日井はそのようなことを申したのか? 勝手に八重に暇を出すなど、この私が許さぬッ。今からでも春日井に文句を申してきてやる」
普段は滅多と激昂することのない清冶郞が珍しく声を荒げ、今にも飛び出してゆこうとする。
八重は狼狽して、その小さな身体を後ろから抱き止めた。
「若君さま、お止め下さいませ。清冶郞さまのお気持ちは嬉しうございますが、今回のことは明らかに私の落ち度にございました。若君さまに何事もなく無事にお屋敷にお帰りになられたからこそ良かったようなものの、もしお忍びで町にお出になっている最中、大切な御身に何かあっては取り返しのつかぬ一大事―、そのことをお側にいる私が認識できていなかったことは春日井さまに咎められても致し方ございませぬ」
「どうした、八重、何か酷いことを言われたのか?」
清冶郞は自分が無理を通したことで八重が春日井に叱られ、相当に責任を感じているようだ。しかし、清冶郞を止められなかった責任は、やはりお付きの八重にある。
八重は淡く微笑んだ。
「いいえ、悪いのは八重にございますから」
「春日井は、あの鬼婆ァは何と申したのだ?」
と、清冶郞はそれこそ世継の若君としては、いささかどころか、かなり品のない物言いをする。
「―今度、このようなことを致せば、即刻も暇を出すと仰せになりました」
その途端、清冶郞の可愛らしい面が見る見る強ばった。
「何と、春日井はそのようなことを申したのか? 勝手に八重に暇を出すなど、この私が許さぬッ。今からでも春日井に文句を申してきてやる」
普段は滅多と激昂することのない清冶郞が珍しく声を荒げ、今にも飛び出してゆこうとする。
八重は狼狽して、その小さな身体を後ろから抱き止めた。
「若君さま、お止め下さいませ。清冶郞さまのお気持ちは嬉しうございますが、今回のことは明らかに私の落ち度にございました。若君さまに何事もなく無事にお屋敷にお帰りになられたからこそ良かったようなものの、もしお忍びで町にお出になっている最中、大切な御身に何かあっては取り返しのつかぬ一大事―、そのことをお側にいる私が認識できていなかったことは春日井さまに咎められても致し方ございませぬ」