月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】
第4章 夜の蝶
明善の哀しいほどに澄んだ視線を受け止めかね、香花は顔を背ける。
考えるより先に、次々に言葉が溢れてきた。
「旦那さまを心からお慕いする私に向かって、旦那さまはここから出てゆけと仰るのですか? 旦那さまお一人を見棄てて、一人でゆけと。どうして、そのような酷いことを仰るのですか?」
振り絞るような悲痛な声が、まるで自分のものではなく他人の声のように遠く響く。
明善は心に滲み込むような声で続けた。
「一人ではない、子どもたちを連れていって欲しいのだ。もし、私に万が一のことがあった時、あの子たちに累が及ばぬ場所に匿ってやって欲しい」
香花は駄々っ子のように首を振る。
「いやです。私はお嬢さん(アツシー)や坊ちゃん(ソバニン)を大切にも弟や妹のようにも思っています。でも、私にとっていちばん大切なのは旦那さまなのです。旦那さまをお一人、ここに残してゆくなんて、できません」
香花は震える声で言うと、うつむけた顔を更に伏せた。
「旦那さまがそうまでして復讐を遂げようとなさるのは、亡くなった奥さまをいまだに心から愛しておられるからですか?」
愚問だとも、けして踏み込んではならない領域だとも判っていた。でも、訊かずにはいられなかった。
自らの生命だけではなく、何もかもを犠牲にしてまでやり遂げようとする復讐に実のところ、何の意味があるのか。明善に向かってそう叫びたくても、できない。
考えるより先に、次々に言葉が溢れてきた。
「旦那さまを心からお慕いする私に向かって、旦那さまはここから出てゆけと仰るのですか? 旦那さまお一人を見棄てて、一人でゆけと。どうして、そのような酷いことを仰るのですか?」
振り絞るような悲痛な声が、まるで自分のものではなく他人の声のように遠く響く。
明善は心に滲み込むような声で続けた。
「一人ではない、子どもたちを連れていって欲しいのだ。もし、私に万が一のことがあった時、あの子たちに累が及ばぬ場所に匿ってやって欲しい」
香花は駄々っ子のように首を振る。
「いやです。私はお嬢さん(アツシー)や坊ちゃん(ソバニン)を大切にも弟や妹のようにも思っています。でも、私にとっていちばん大切なのは旦那さまなのです。旦那さまをお一人、ここに残してゆくなんて、できません」
香花は震える声で言うと、うつむけた顔を更に伏せた。
「旦那さまがそうまでして復讐を遂げようとなさるのは、亡くなった奥さまをいまだに心から愛しておられるからですか?」
愚問だとも、けして踏み込んではならない領域だとも判っていた。でも、訊かずにはいられなかった。
自らの生命だけではなく、何もかもを犠牲にしてまでやり遂げようとする復讐に実のところ、何の意味があるのか。明善に向かってそう叫びたくても、できない。