月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】
第4章 夜の蝶
「口を開いてごらん」
耳許で掠れた声が囁き、香花は戸惑いながらも薄く唇を開く。そのわずかな隙間から尖った舌先が入り込み、香花の口の中を縦横にまさぐった。逃げ惑う舌を絡められ、音を立てて吸い上げられる。
未知のことに怯えた香花が顔を背けようとしても、明善は強引に香花の顔を両手で固定し、口を吸った。
香花は口づけも初めてなら、このような深い口づけがあることさえ知らなかった。明善の舌が香花の口の中で蠢き回り、欲しいままに蹂躙する度に、濡れた水音が妖しく夜陰に響く。何故かとてもそれが嫌らしいような気がして、香花はつい両手を突っ張って、明善の厚い胸板を押し返してしまった。
香花が抵抗らしい抵抗を見せたことで、初めて明善も我に返ったようだ。
「済まぬ、私としたことが、年甲斐もなく夢中になって逸ってしまった」
明善は狼狽えたように忙しなく眼をまたたかせた。
「いやだったのではないか?」
明善は、顔を背ける香花に気遣うような言葉をかけた。
「いやではないけど、少し―怖かったです。何だか、いつもの旦那さまではないみたいで」
同じ布団で横たわり一夜を過ごしながらも、香花の身体には指一本触れなかったような明善だ。なのに、今夜は香花の意思も確かめようとはせず、烈しい口づけを重ねた。
「そうか、私は怖かったか―」
明善は面映ゆげに困ったような笑みを浮かべた。
「済まない、そなたを怖がらせるつもりはなかった」
詫びた明善の視線がふと一点で止まる。
耳許で掠れた声が囁き、香花は戸惑いながらも薄く唇を開く。そのわずかな隙間から尖った舌先が入り込み、香花の口の中を縦横にまさぐった。逃げ惑う舌を絡められ、音を立てて吸い上げられる。
未知のことに怯えた香花が顔を背けようとしても、明善は強引に香花の顔を両手で固定し、口を吸った。
香花は口づけも初めてなら、このような深い口づけがあることさえ知らなかった。明善の舌が香花の口の中で蠢き回り、欲しいままに蹂躙する度に、濡れた水音が妖しく夜陰に響く。何故かとてもそれが嫌らしいような気がして、香花はつい両手を突っ張って、明善の厚い胸板を押し返してしまった。
香花が抵抗らしい抵抗を見せたことで、初めて明善も我に返ったようだ。
「済まぬ、私としたことが、年甲斐もなく夢中になって逸ってしまった」
明善は狼狽えたように忙しなく眼をまたたかせた。
「いやだったのではないか?」
明善は、顔を背ける香花に気遣うような言葉をかけた。
「いやではないけど、少し―怖かったです。何だか、いつもの旦那さまではないみたいで」
同じ布団で横たわり一夜を過ごしながらも、香花の身体には指一本触れなかったような明善だ。なのに、今夜は香花の意思も確かめようとはせず、烈しい口づけを重ねた。
「そうか、私は怖かったか―」
明善は面映ゆげに困ったような笑みを浮かべた。
「済まない、そなたを怖がらせるつもりはなかった」
詫びた明善の視線がふと一点で止まる。