月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】
第4章 夜の蝶
あてどなく舞い続ける蝶を眺めながら、明善は言った。
「私の方こそ黄真伊の詩を口ずさみたい気分だ。生涯、心にとどめておきたい、忘れがたいと思わずにはいられない、そんな一瞬が誰にでもあるのだね」
想いと想いを通わせ合った夜。本当ならば、恋人たちにとっては、またとない幸せな夜となり、同時にこれから始まる幸福な物語の始まりともなるはずの夜だった。
しかし、香花と明善のゆく末に幸せな結末はない。幾ら両想いになっても、二人に未来などありはしないのだ。
これで、十分ではないか。
大好きな男が二人だけで幻の花を見た夜を永遠に記憶にとどめておきたいと言ってくれた。香花と過ごしたひとときを忘れがたいものだと言ったのだ。
もうもこれ以上、何を望むというのだろう。
香花の眼に熱い涙が滲む。それでも一生に一度きりの夜に涙など見せてはいけないと、香花は涙をまたたきで散らしながら、いつまでも明善の傍らに寄り添って七色の紫陽花を見つめていた。
「私の方こそ黄真伊の詩を口ずさみたい気分だ。生涯、心にとどめておきたい、忘れがたいと思わずにはいられない、そんな一瞬が誰にでもあるのだね」
想いと想いを通わせ合った夜。本当ならば、恋人たちにとっては、またとない幸せな夜となり、同時にこれから始まる幸福な物語の始まりともなるはずの夜だった。
しかし、香花と明善のゆく末に幸せな結末はない。幾ら両想いになっても、二人に未来などありはしないのだ。
これで、十分ではないか。
大好きな男が二人だけで幻の花を見た夜を永遠に記憶にとどめておきたいと言ってくれた。香花と過ごしたひとときを忘れがたいものだと言ったのだ。
もうもこれ以上、何を望むというのだろう。
香花の眼に熱い涙が滲む。それでも一生に一度きりの夜に涙など見せてはいけないと、香花は涙をまたたきで散らしながら、いつまでも明善の傍らに寄り添って七色の紫陽花を見つめていた。