月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】
第5章 永遠の別離
永遠の別離
その三日後、梅雨が明けた。長かった雨降りの季節は、一瞬の雷雨を最後として呆気なく終わった。
梅雨と入れ替わるように、本格的な猛暑がやって来る。その運命の日は朝から太陽が容赦なく照りつける暑い一日となった。
その日、明善は早朝に屋敷を出た。何でも緊急の御前会議があるとかで、入宮しなければならなくなったらしい。
午前中はいつものように桃華と林明と勉強をし、少し早めの昼飯を終えた後、香花は厨房にいた。
「大変だ、大変だ」
破(や)れ鐘のようなよく響く声は、ウィギルだ。
ウィギルは息せききって厨房に駆け込んでくると、〝水、水〟と繰り返した。香花が甕から瓢箪形の器に水を汲んで渡してやると、喉を鳴らしてひと息に飲み干した。
樽の中を覗き込み、キムチの浸かり具合を見ていたソンジョルが眉をしかめる。
「一体、どうしたんだい。まるで、天と地が真っ逆さまに引っ繰り返ったような騒ぎようじゃないか」
「それどころじゃねえ、うちの旦那さまが―旦那さまが義禁府の役人にとっ捕まっちまったんだよ」
ソンジョルと共にキムチを漬けていた香花が色を失い、ウィギルの許に駆け寄る。
「それは、どういうことなの、ウィギル」
ウィギルは荒い息を吐きながら言葉を継いだ。
「もう都中の噂になってますよ。うちの旦那が謀反の密告人として捕らえられたって」
事の起こりと顛末を香花はウィギルの話を通じて初めて知った。
その三日後、梅雨が明けた。長かった雨降りの季節は、一瞬の雷雨を最後として呆気なく終わった。
梅雨と入れ替わるように、本格的な猛暑がやって来る。その運命の日は朝から太陽が容赦なく照りつける暑い一日となった。
その日、明善は早朝に屋敷を出た。何でも緊急の御前会議があるとかで、入宮しなければならなくなったらしい。
午前中はいつものように桃華と林明と勉強をし、少し早めの昼飯を終えた後、香花は厨房にいた。
「大変だ、大変だ」
破(や)れ鐘のようなよく響く声は、ウィギルだ。
ウィギルは息せききって厨房に駆け込んでくると、〝水、水〟と繰り返した。香花が甕から瓢箪形の器に水を汲んで渡してやると、喉を鳴らしてひと息に飲み干した。
樽の中を覗き込み、キムチの浸かり具合を見ていたソンジョルが眉をしかめる。
「一体、どうしたんだい。まるで、天と地が真っ逆さまに引っ繰り返ったような騒ぎようじゃないか」
「それどころじゃねえ、うちの旦那さまが―旦那さまが義禁府の役人にとっ捕まっちまったんだよ」
ソンジョルと共にキムチを漬けていた香花が色を失い、ウィギルの許に駆け寄る。
「それは、どういうことなの、ウィギル」
ウィギルは荒い息を吐きながら言葉を継いだ。
「もう都中の噂になってますよ。うちの旦那が謀反の密告人として捕らえられたって」
事の起こりと顛末を香花はウィギルの話を通じて初めて知った。