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月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】

第5章 永遠の別離

 叔母は香花の心を見抜いたように、吐息混じりに言った。
「国王殿下のお怒りが尋常ではなく深いのです。殿下は崔承旨の人柄をとても高く評価され、信頼されていましたからね。にも拘わらず、明善さまは殿下を裏切っていたのです。たとえ明善さまが陰謀から抜け、事の次第を殿下にお知らせしたからといって、陰謀に荷担していたという事実は消えません。恐らく殿下はそのことを重く見られたのでしょう」
 叔母はいっそう声を低めた。
「明善さまは間違いなく殺されます。たとえ処刑されずとも、その前に酷い拷問で生命を落とすことでしょう。殿下は明善さまを大逆罪に問うおつもりで、その子に至るまで捕らえて処刑しろと憤っておられるそうですよ。今、穏健派の右相大督や兵曹判書さまが罪なき幼子まで罪に問うはあまりに厳しすぎると懸命に取りなしておられるそうですが、果たして、そんなことで殿下のお怒りが鎮まるかしら」
 叔母は、王が処分を覆すことに懐疑的なようだ。
「だからこそ、逃げるのです、香花。あなたは明善さまとは何の拘わりもないけれど、ふた月もの間、このお屋敷に住み込みで働いていた身です。しかも、謀反の発覚する直前にこの屋敷に来たのですから、拘わりがあると見なされても不思議ではありません。現に、ごく最近、家庭教師として入った娘も厳しく詮議せよとの王命が下されるだろうという話も聞いています。今の殿下のお怒りの烈しさをもってすれば、あなたの身だって、どうなるか判ったものではないのよ」

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