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月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】

第5章 永遠の別離

 叔母はまさか、香花が崔家の子どもたちを連れて出てゆくとは夢にも考えていなかったろう。もし考えていたら、血相を変えて止めていたはずだ。たいした苦労らしい苦労も知らずに育った両班の娘がたった一人で世間に放り出され、生きてゆくだけでも想像を絶するのに、その上、二人の子どもを連れてゆくなどとは、まさに三人で心中するようなものだ。
 それでも、香花は二人を置いてはゆけないと思った。叔母が訪ねてくるまで、桃華も林明もそれぞれ両脇から香花のチマの裾を握りしめ、片時も傍から離れようとしなかった。急な来客ということで、ほんの少しだけだからと二人に言い聞かせ、ソンジョルに任せて自分の部屋に戻ったのである。
 香花と桃華は頭からすっぽりと外套を被り、林明は手に風呂敷包みを下げた。二、三日分の着替えと非常食―揚げパンや餅、肉の燻製などが入っている。むろん、香花もそれらの入った包みを小脇に抱えている。
 二人を連れて出てゆくと告げた時、ソンジョルは自分もまた夜中にここを出てゆくつもりだときっぱりとした表情で言った。
 叔母は帰り際に耳許で囁いた。
―塀を乗り越えて外に出るのです。裏門の方には見張りは殆どいないも同然だし、夜更けなら、尚更です。もし見張りに見つかったら、指輪の一つでも与えれば、見逃してくれますからね。
 屋敷をこっそりと出て、生い茂った樹々に巧みに身を隠しながら庭を抜ける。池の傍を通る時、紫陽花がかいま見えた。
 梅雨も終わり、紫陽花は色褪せ、殆ど枯れてしまっている。辛うじて七色の紫陽花が一つだけ咲き残っているのがやけに侘びしく、淋しげに見えた。

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