
月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】
第5章 永遠の別離
「おい、慈温(ジヤウォン)、止めろ」
光王が不自然なほど大きな声で叫んだ。
「―寝た?」
言葉の意味が判らず不思議そうに眼をまたたかせる香花を見て、ジャウォンと呼ばれた男が大笑いした。
「こいつは良いや。光王、今度の情人(いろ)はやけに乳臭い小娘だな。お前の守備範囲もいよいよひろがったってわけか?」
光王は憮然としてジャウォンを物凄い眼で睨むと、プイとそっぽを向いた。
香花はそれから女将に案内され、座敷に上ががった。座敷といっても、ちゃんとした一戸建ての独立した建物で、判り易くいえば、離れのようになっている。部屋は一つだけで、小さいながらも箪笥や棚まで据え付けられており、きれいに整えられていた。これも女将の人柄だろう。
既に桃華と林明は薄い粗末な夜具にくるまり、深い眠りに落ちている。
「どうぞごゆっくり」
いささか無愛想にも思える声で言った女将がつと立ち止まった。
「良い気にならないでね」
「―え」
香花が首を傾げる。
「光王はあまりに複雑なものを背負い過ぎてる。到底、あんたのような世間知らずの両班のお嬢さんが相手できるような男じゃない。あいつには忘れられない女がいるんだよ。その女じゃなきゃ、駄目なのさ」
つまり、ただ一人のその女以外なら、あの男にとっちゃ、女なら誰でも良い、どうでも良いってこと。
女将は投げやりに言うと、急ぎ足で出ていった。
―お前、俺が昔、惚れた女に似てるんだ。だから、かな。お前から眼が離せなくなっちまったのは。
光王が不自然なほど大きな声で叫んだ。
「―寝た?」
言葉の意味が判らず不思議そうに眼をまたたかせる香花を見て、ジャウォンと呼ばれた男が大笑いした。
「こいつは良いや。光王、今度の情人(いろ)はやけに乳臭い小娘だな。お前の守備範囲もいよいよひろがったってわけか?」
光王は憮然としてジャウォンを物凄い眼で睨むと、プイとそっぽを向いた。
香花はそれから女将に案内され、座敷に上ががった。座敷といっても、ちゃんとした一戸建ての独立した建物で、判り易くいえば、離れのようになっている。部屋は一つだけで、小さいながらも箪笥や棚まで据え付けられており、きれいに整えられていた。これも女将の人柄だろう。
既に桃華と林明は薄い粗末な夜具にくるまり、深い眠りに落ちている。
「どうぞごゆっくり」
いささか無愛想にも思える声で言った女将がつと立ち止まった。
「良い気にならないでね」
「―え」
香花が首を傾げる。
「光王はあまりに複雑なものを背負い過ぎてる。到底、あんたのような世間知らずの両班のお嬢さんが相手できるような男じゃない。あいつには忘れられない女がいるんだよ。その女じゃなきゃ、駄目なのさ」
つまり、ただ一人のその女以外なら、あの男にとっちゃ、女なら誰でも良い、どうでも良いってこと。
女将は投げやりに言うと、急ぎ足で出ていった。
―お前、俺が昔、惚れた女に似てるんだ。だから、かな。お前から眼が離せなくなっちまったのは。
