
月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】
第5章 永遠の別離
そういえば、いつか光王自身がそんなことを言っていた。〝兄〟と称して崔家の屋敷まで逢いにきたときの話だ。
女将の言う〝忘れられない女〟というのが、光王の言っていた女なのだろうか。
―そんなの、どうだって良いじゃない。
香花は自分に言い聞かせる。
光王には確かに、今回、助けて貰った。でも、ただのそれだけのことで、香花が光王に特別な感情を抱いているわけでもないし、ましてや、その逆なんてこともあり得ない。
光王は〝義賊光王〟なのだ。ただ困っている香花を見棄てるのに忍びなかっただけだろう。
なのに、何故、光王の忘れられない女というのがこんなにも気になる―?
―私が好きなのは、明善さまただ一人のはずなのに。
自分の中で光王の存在がどんどん大きくなってくることに、香花は怯えた。
女将が用意してくれた薄い夜具に身を横たえ、掛けふすまを顎まで引き上げながら、香花は無意識の中に手のひらでごしごしと唇をこすった。
しんと冷たい光王の唇の感触が今もここに残っているようだ。明善の唇を受け止めた時、その唇は燃えるように熱かったのに、光王の唇はまるで氷のように冷え切っていた。
多分、それは香花に対する二人の男の気持ちの相違だろう。
でも、どうして、自分はそんなことを気にするのか?
想いを巡らせている中に、いつしか香花は深い眠りの底に沈んでいった。
女将の言う〝忘れられない女〟というのが、光王の言っていた女なのだろうか。
―そんなの、どうだって良いじゃない。
香花は自分に言い聞かせる。
光王には確かに、今回、助けて貰った。でも、ただのそれだけのことで、香花が光王に特別な感情を抱いているわけでもないし、ましてや、その逆なんてこともあり得ない。
光王は〝義賊光王〟なのだ。ただ困っている香花を見棄てるのに忍びなかっただけだろう。
なのに、何故、光王の忘れられない女というのがこんなにも気になる―?
―私が好きなのは、明善さまただ一人のはずなのに。
自分の中で光王の存在がどんどん大きくなってくることに、香花は怯えた。
女将が用意してくれた薄い夜具に身を横たえ、掛けふすまを顎まで引き上げながら、香花は無意識の中に手のひらでごしごしと唇をこすった。
しんと冷たい光王の唇の感触が今もここに残っているようだ。明善の唇を受け止めた時、その唇は燃えるように熱かったのに、光王の唇はまるで氷のように冷え切っていた。
多分、それは香花に対する二人の男の気持ちの相違だろう。
でも、どうして、自分はそんなことを気にするのか?
想いを巡らせている中に、いつしか香花は深い眠りの底に沈んでいった。
