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月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】

第1章 第一話【月下にひらく花】転機

 主人の崔承旨と対面した後、今度は子どもたちに紹介される番となった。
 崔承旨の子どもたちは二人、上が女の子で下は男の子だ。姉娘の桃華は七歳、弟の林明は六歳。桃(ボ)華(ファ)が物怖じしない、はきはきとした気性なのに比べ、肝心の林明は引っ込み思案のようで、姉の手をひしと握りしめ、父の背に隠れている。まるで追われた野兎が狩人から身を隠しているように怯えている。
「これ、林明。先生にご挨拶せぬか」
 父親に促されても、一向にその後ろから出てこようとはしない。
「金先生、このとおりの恥ずかしがり屋ですが、よろしくご指導お願いします」
 崔承旨の子どもたちを見る瞳は常よりいっそう優しげに細められている。
 二人の子どもたちは、どちらもあまり崔承旨には似ていなかった。苦み走った男ぶりの彼はなかなかの男前であるが、二人の子どもたちは極めて平凡な顔立ちであったからだ。恐らく、桃華も林明も父よりは亡き母に似たのかもしれない。
―旦那さまの亡くなった奥方さまって、どんな方だったの?
 夫人が世を去って、既に久しい。崔夫人は林明を生んで二年後に亡くなったのだ。つまり、崔承旨は男手一つで二人の子どもを育ててきたことになる。
 四年も前に亡くなった崔承旨の奥方と自分には何の拘わりもないはずなのに、どうして、こんなにも奥方のことが気になってしまうのか。
 香花には、判らない。ただ、二人の幼子を抱えていながらも、これまで後妻も娶らずに通してきた崔承旨の心境はおおよそは理解できるような気がした。叔母の話によれば、崔承旨は評判の愛妻家であったという。

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