月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】
第5章 永遠の別離
「怖ぇ、怖ぇ。ぶん殴られちゃ、たまらない」
おどけて怖がって見せる光王に、香花がしんみりとして言った、
「そういえば、桃華さまも林明さまも蒸し饅頭が大好物だったわね。ほら、いつか光王が町の市で買ってきたことがあったじゃない。二人、とっても歓んで私たちの分まで食べたって、光王ったら、本気でむくれてた」
「想い出に浸るのは良いが、ついでにつまらんことまで思い出すな」
光王が抗議するのにも頓着せず、香花が遠い眼で呟いた。
「―二人にはもう二度と逢えないのね」
光王がふと真顔になる。
「縁があれば、また、逢えるさ。そろそろ、ここも引き上げるか。桃華と林明も出ていったことだしな。お前は両班の娘だったんだから、もう少しマシな家に棲みたいだろう?」
温かな手が香花の髪を撫でる。その優しい手は、かつて明善が髪を撫でてくれたときの温もりを呼び起こした。
「別に私は今のままで構わないのに」
それは香花の本音だ。一緒にいれば、いつも喧嘩ばかりしてしまうけれど。きっと、この賑やかな男となら、どこだって愉しく過ごしてゆけるだろう。
おどけて怖がって見せる光王に、香花がしんみりとして言った、
「そういえば、桃華さまも林明さまも蒸し饅頭が大好物だったわね。ほら、いつか光王が町の市で買ってきたことがあったじゃない。二人、とっても歓んで私たちの分まで食べたって、光王ったら、本気でむくれてた」
「想い出に浸るのは良いが、ついでにつまらんことまで思い出すな」
光王が抗議するのにも頓着せず、香花が遠い眼で呟いた。
「―二人にはもう二度と逢えないのね」
光王がふと真顔になる。
「縁があれば、また、逢えるさ。そろそろ、ここも引き上げるか。桃華と林明も出ていったことだしな。お前は両班の娘だったんだから、もう少しマシな家に棲みたいだろう?」
温かな手が香花の髪を撫でる。その優しい手は、かつて明善が髪を撫でてくれたときの温もりを呼び起こした。
「別に私は今のままで構わないのに」
それは香花の本音だ。一緒にいれば、いつも喧嘩ばかりしてしまうけれど。きっと、この賑やかな男となら、どこだって愉しく過ごしてゆけるだろう。