月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】
第6章 第2話【燕の歌~Swallow song】・新しい町
「不正をやらかしてた―?」
突然、真後ろで低い声が響き、香花はビクッと飛び上がった。光王が脚音を立てないのはいつものことだが、これには慣れそうにない。心臓に悪いのだ。
「ああ、大きな声じゃ言えないが、その工房はこの町でもいちばんの規模を誇ってたんだ。だけど、そこの親方がちょっとばかり欲を出しちまったのが運の尽きさ」
「工房を閉めるほどのことって言えば、よほどの悪事をやらかしたんだね?」
光王はいつものように巧みな話術で、相手から話を上手に引き出してゆく。
老人は待ってましたとばかりに話し始めた。
「偽物をバレないようにひそかに売ってたんだよ」
「偽物を?」
わざと大きな声を出して愕いて見せる光王に、老人はシィと人さし指を立てた。
「あんた、儂の店を潰す気かい? こんな話を昼日中から町中でしているのを使道(サド)に知られたら、それこそ儂も店を畳む羽目になっちまうからよう」
老人は狼狽えて、しきりにキョロキョロと周囲を気にしている。
「何だい、爺さん。それじゃ、その事件の黒幕は使道っていうわけかい」
光王が声を低めて問うと、老人は何度も頷いた。
「そうさ、工房の親方は使道に命じられて、偽物の玉石を使った装飾品を両班(ヤンバン)に売りつけてたんだ。それが、とうとうバレちまって、肝心の使道の奴は知らぬ存ぜぬで親方を切り棄てたから、親方は役人にとっつかまって、コレさ」
と、老人は自分の細い皺首を手でチョンチョンとつついた。つまり、罰として見せしめに、親方は首を斬られた―ということである。
突然、真後ろで低い声が響き、香花はビクッと飛び上がった。光王が脚音を立てないのはいつものことだが、これには慣れそうにない。心臓に悪いのだ。
「ああ、大きな声じゃ言えないが、その工房はこの町でもいちばんの規模を誇ってたんだ。だけど、そこの親方がちょっとばかり欲を出しちまったのが運の尽きさ」
「工房を閉めるほどのことって言えば、よほどの悪事をやらかしたんだね?」
光王はいつものように巧みな話術で、相手から話を上手に引き出してゆく。
老人は待ってましたとばかりに話し始めた。
「偽物をバレないようにひそかに売ってたんだよ」
「偽物を?」
わざと大きな声を出して愕いて見せる光王に、老人はシィと人さし指を立てた。
「あんた、儂の店を潰す気かい? こんな話を昼日中から町中でしているのを使道(サド)に知られたら、それこそ儂も店を畳む羽目になっちまうからよう」
老人は狼狽えて、しきりにキョロキョロと周囲を気にしている。
「何だい、爺さん。それじゃ、その事件の黒幕は使道っていうわけかい」
光王が声を低めて問うと、老人は何度も頷いた。
「そうさ、工房の親方は使道に命じられて、偽物の玉石を使った装飾品を両班(ヤンバン)に売りつけてたんだ。それが、とうとうバレちまって、肝心の使道の奴は知らぬ存ぜぬで親方を切り棄てたから、親方は役人にとっつかまって、コレさ」
と、老人は自分の細い皺首を手でチョンチョンとつついた。つまり、罰として見せしめに、親方は首を斬られた―ということである。