月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】
第6章 第2話【燕の歌~Swallow song】・新しい町
「それで、その娘さんは、どうなったんですか?」
香花は横から恐る恐る訊ねた。
老人が溜息をつき、世にも哀しげに首を振る。
「死んじまったよ」
「―そんな」
香花が息を呑むと、光王がやるせなさそうに言った。
「香花、考えてもみろよ。親方が亡くなって、好色な使道が眼をつけてた娘をそのままにしておくと思うか?」
香花は唇を噛んだ。確かに光王の言うとおりだ。恐らく、親方の死後、使道は娘を側妾にしようとしたに違いない。そして、娘は自ら生命を絶った―?
香花の想像は少し違っていた。一人娘はやはり、父の死後は望まれて側室として使道の屋敷に迎えられた。意に添わぬ日々の中で娘は、すぐに身籠もったが、産み月少し前に死産し、肥立ち良からず亡くなったという。
「親方も娘も結局は使道に殺されたようなものだ。顔だけでなく気立ての良い優しい娘だったのに、あんなことになっちまってよう、儂はあの男が殺してやりたいほど憎いよ」
老人の言葉に、光王が何気ない風で訊ねる。
「使道ってえのは、そんなに酷い野郎なのかい」
「大っぴらに口にする者はいないが、この町だけでなく近隣の村々にも使道を憎んでる奴はごまんといるさ」
老人は当然だと言わんばかりに応えた。
「ところで、このノリゲはどうするね? お前さんと親方の話をしたのも何かの縁だ。どうせ儂は親方の不幸を種に儲けようなんて考えちゃおらんから、良かったら、持っていきな」
「これだけの品をただでくれるのかい、爺さん」
香花は横から恐る恐る訊ねた。
老人が溜息をつき、世にも哀しげに首を振る。
「死んじまったよ」
「―そんな」
香花が息を呑むと、光王がやるせなさそうに言った。
「香花、考えてもみろよ。親方が亡くなって、好色な使道が眼をつけてた娘をそのままにしておくと思うか?」
香花は唇を噛んだ。確かに光王の言うとおりだ。恐らく、親方の死後、使道は娘を側妾にしようとしたに違いない。そして、娘は自ら生命を絶った―?
香花の想像は少し違っていた。一人娘はやはり、父の死後は望まれて側室として使道の屋敷に迎えられた。意に添わぬ日々の中で娘は、すぐに身籠もったが、産み月少し前に死産し、肥立ち良からず亡くなったという。
「親方も娘も結局は使道に殺されたようなものだ。顔だけでなく気立ての良い優しい娘だったのに、あんなことになっちまってよう、儂はあの男が殺してやりたいほど憎いよ」
老人の言葉に、光王が何気ない風で訊ねる。
「使道ってえのは、そんなに酷い野郎なのかい」
「大っぴらに口にする者はいないが、この町だけでなく近隣の村々にも使道を憎んでる奴はごまんといるさ」
老人は当然だと言わんばかりに応えた。
「ところで、このノリゲはどうするね? お前さんと親方の話をしたのも何かの縁だ。どうせ儂は親方の不幸を種に儲けようなんて考えちゃおらんから、良かったら、持っていきな」
「これだけの品をただでくれるのかい、爺さん」