月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】
第6章 第2話【燕の歌~Swallow song】・新しい町
光王は自身が小間物の行商をしていただけに、こういった装飾品についての目利きには通じている。
「ああ、欲しけりゃ、持っていくが良い。お前さんらのような人に持っていって貰えるのなら、これを作った親方も満足するだろう」
老人は皺だらけの顔に埋もれた細い眼をしばたたかせた。
「儂が使道を許さないと思うのは、何もそれだけじゃない。お嬢さん(アツシー)、使道の側妾となった親方の娘がどのような末路を辿ったか、想像ができるかね」
今度の問いは香花に向けられたものだった。
香花が小さく首を振ると、老人は遠い眼になった。
「女心とはげに不思議なもので、娘は、あんな男でも使道の屋敷にいる中に次第に使道を男として慕うようになったらしい。何しろ、親方が大切に育てた娘で、ろくに世間も男も知らなかったような娘(こ)だからのう。娘にとっては、使道が初めて父親以外に知った男だったというわけだ。しかし、娘が身籠もった挙げ句に儚くなっても、使道はろくに哀しみもしなかったよ。すぐにまた新しい若い女を連れてきて、その側妾に夢中になっておる。卑劣な手段を用いてまで手に入れた女だというのに、涙どころか哀しげな顔すらせぬ。薄情な奴め」
「本当に酷い話だな」
光王は顔をしかめ、袖から巾着を取り出すと、銭を老人の手に握らせた。
「だから、儂は銭は要らないと―」
言いかける老人に、光王は薄く笑った。
「たいした額じゃない。良かったら、亡くなった親方と娘の供養でもしてやってくれ」
光王は老人から瓢箪のノリゲを受け取りながら言った。
「ああ、欲しけりゃ、持っていくが良い。お前さんらのような人に持っていって貰えるのなら、これを作った親方も満足するだろう」
老人は皺だらけの顔に埋もれた細い眼をしばたたかせた。
「儂が使道を許さないと思うのは、何もそれだけじゃない。お嬢さん(アツシー)、使道の側妾となった親方の娘がどのような末路を辿ったか、想像ができるかね」
今度の問いは香花に向けられたものだった。
香花が小さく首を振ると、老人は遠い眼になった。
「女心とはげに不思議なもので、娘は、あんな男でも使道の屋敷にいる中に次第に使道を男として慕うようになったらしい。何しろ、親方が大切に育てた娘で、ろくに世間も男も知らなかったような娘(こ)だからのう。娘にとっては、使道が初めて父親以外に知った男だったというわけだ。しかし、娘が身籠もった挙げ句に儚くなっても、使道はろくに哀しみもしなかったよ。すぐにまた新しい若い女を連れてきて、その側妾に夢中になっておる。卑劣な手段を用いてまで手に入れた女だというのに、涙どころか哀しげな顔すらせぬ。薄情な奴め」
「本当に酷い話だな」
光王は顔をしかめ、袖から巾着を取り出すと、銭を老人の手に握らせた。
「だから、儂は銭は要らないと―」
言いかける老人に、光王は薄く笑った。
「たいした額じゃない。良かったら、亡くなった親方と娘の供養でもしてやってくれ」
光王は老人から瓢箪のノリゲを受け取りながら言った。