月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】
第6章 第2話【燕の歌~Swallow song】・新しい町
「あんたは、この町の人間じゃねえな?」
老人の問いにも、光王は動じることなく頷く。
「ああ、都から来たんだ。なかなか良いところなんで、腰を落ち着けようと思ってる」
その応えは老人をいたく満足させたようだ。老人は眼を細めて幾度も頷いた。
「そうか、確かにこの町は棲み易い、皆、人情も厚い連中ばかりだしな。良い町だったよ。あの使道が赴任してくるまでは」
どうやら、言葉どおり、この老人は使道に相当の遺恨を抱(いだ)いているらしい。
「ま、あと二、三年もすれば、使道の任期も明ける。そうなれば、あのろくでなしが都に帰り、新しい使道が来るだろう。今少しの辛抱だ。もっとも、次に来る使道までとんでもない奴かもしれないが」
老人はほろ苦く笑う。
「お前さんたちはまだ若いんだ。旅暮らしも気ままで良いかもしれんが、早く腰を落ち着けて、子どもでも作った方が良いぞ。あんまりにも若いんで、つい、お嬢さんと呼んじまったが、奥さん、あんたに似た器量良しの子どもを山ほども産みなさい。子どもは、多ければ多いほど良い」
最後はそれまでの深刻な話しぶりが嘘のように、愉快そうに声を上げて笑った。
「―違います!」
香花は我知らず大声で叫んでしまった。
老人が細い眼を見開いている。
「あ、あの。いきなり大きな声を出したりして、ごめんなさい。でも、私たち、違うんです。夫婦じゃありません」
香花が口ごもりながらも、きっぱり否定する。何故、老人のこのひと言にここまで過剰反応するのだろう。頬が紅くなっているのが自分にも判る。
老人の問いにも、光王は動じることなく頷く。
「ああ、都から来たんだ。なかなか良いところなんで、腰を落ち着けようと思ってる」
その応えは老人をいたく満足させたようだ。老人は眼を細めて幾度も頷いた。
「そうか、確かにこの町は棲み易い、皆、人情も厚い連中ばかりだしな。良い町だったよ。あの使道が赴任してくるまでは」
どうやら、言葉どおり、この老人は使道に相当の遺恨を抱(いだ)いているらしい。
「ま、あと二、三年もすれば、使道の任期も明ける。そうなれば、あのろくでなしが都に帰り、新しい使道が来るだろう。今少しの辛抱だ。もっとも、次に来る使道までとんでもない奴かもしれないが」
老人はほろ苦く笑う。
「お前さんたちはまだ若いんだ。旅暮らしも気ままで良いかもしれんが、早く腰を落ち着けて、子どもでも作った方が良いぞ。あんまりにも若いんで、つい、お嬢さんと呼んじまったが、奥さん、あんたに似た器量良しの子どもを山ほども産みなさい。子どもは、多ければ多いほど良い」
最後はそれまでの深刻な話しぶりが嘘のように、愉快そうに声を上げて笑った。
「―違います!」
香花は我知らず大声で叫んでしまった。
老人が細い眼を見開いている。
「あ、あの。いきなり大きな声を出したりして、ごめんなさい。でも、私たち、違うんです。夫婦じゃありません」
香花が口ごもりながらも、きっぱり否定する。何故、老人のこのひと言にここまで過剰反応するのだろう。頬が紅くなっているのが自分にも判る。