月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】
第6章 第2話【燕の歌~Swallow song】・新しい町
「光王、光王ったら、ねえ、ちょっと待ってよ」
香花が一人で紅くなったり蒼くなったりしている中に、光王はさっさと一人で歩いてゆく。二人の間の距離は大きくなるばかりだ。
「光王、待っててば」
叫ぶと、漸く光王が歩みを止め、背後を振り向いた。
「私、空腹でもう歩けないわよ」
昼時はとうに過ぎている。年頃の乙女としては恥ずかしい限りではあるけれど、香花のお腹は先刻から鳴りっ放しで空腹を訴えている。今し方も、露天商の老人に腹の虫の鳴る音を聞かれはせぬかと気が気ではなかったのだ。
「そこら辺の店で適当に何か買って食えば良いだろう」
光王の声は、いつになく冷たい。いつもは揶揄したり、子ども扱いはするが、光王は基本的には香花に優しいのだ。
「なに、何で、そんなに機嫌悪いの? 何か怒ってるの?」
香花としては心外だ。何故、突然、光王がそのような態度を取るのか思い当たる節がない。
「あそこまで徹底的に否定することはないんじゃないか?」
低い抑揚のない声。明らかに光王は怒っている。でも、何故―?
「え、何を? 何のこと。光王、よく判るように言ってよ」
「だから、俺たちが―」
言いかけ、光王はハッとしたような表情になった。
「いや、もう良い」
光王は額に落ちた長い前髪をかき上げながら、〝俺としたことが何をムキになってるんだ〟などと、ぶつくさ言っている。
香花が一人で紅くなったり蒼くなったりしている中に、光王はさっさと一人で歩いてゆく。二人の間の距離は大きくなるばかりだ。
「光王、待っててば」
叫ぶと、漸く光王が歩みを止め、背後を振り向いた。
「私、空腹でもう歩けないわよ」
昼時はとうに過ぎている。年頃の乙女としては恥ずかしい限りではあるけれど、香花のお腹は先刻から鳴りっ放しで空腹を訴えている。今し方も、露天商の老人に腹の虫の鳴る音を聞かれはせぬかと気が気ではなかったのだ。
「そこら辺の店で適当に何か買って食えば良いだろう」
光王の声は、いつになく冷たい。いつもは揶揄したり、子ども扱いはするが、光王は基本的には香花に優しいのだ。
「なに、何で、そんなに機嫌悪いの? 何か怒ってるの?」
香花としては心外だ。何故、突然、光王がそのような態度を取るのか思い当たる節がない。
「あそこまで徹底的に否定することはないんじゃないか?」
低い抑揚のない声。明らかに光王は怒っている。でも、何故―?
「え、何を? 何のこと。光王、よく判るように言ってよ」
「だから、俺たちが―」
言いかけ、光王はハッとしたような表情になった。
「いや、もう良い」
光王は額に落ちた長い前髪をかき上げながら、〝俺としたことが何をムキになってるんだ〟などと、ぶつくさ言っている。