月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】
第6章 第2話【燕の歌~Swallow song】・新しい町
いずれ一人前の女性となった時、美しく結い上げた髪にあの珊瑚の簪を挿すのが夢だ。なので、光王から貰った珊瑚の簪は大切に懐にしまって肌身離さず持ち歩いている。
先ほどの露店で初めてこのノリゲを眼にした時、すぐに珊瑚の簪のことが頭に浮かんだ。まるで簪とお揃いで誂えたようなノリゲに、ひとめで心奪われてしまった。あの香花にとっては宝物ともいえる簪と一緒にチョゴリの紐に結んで使えば素敵だろうなと考えたのだ。
光王が訳もなく、こんな風な黙(だんま)りになってしまうことなんて、これまで一度もなかった。それが自分のせいなのだと判っているからこそ、香花は尚更、哀しくなってしまった。
しかし。
当の光王は全く別のことを考えていたのである。
露天商の老人から、夫婦だと勘違いされた時、光王の心境としては実のところ、満更でもなかった。都を出てから色々な町を通過してきたものの、香花と自分が夫婦や恋人同士に間違われたのは、既にもう数え切れないほどになっていたからでもある。
これまでは、香花はそう言われて格別嬉しそうでもなかったが、迷惑そうでもなかった。曖昧な笑顔でその場をやり過ごしていたのだ。が、何故か、今日ばかりは、即座にきっぱりと否定した。
当然といえば、当然だ。香花と自分は夫婦どころか許婚者でもなく、恋人でもない。香花にしてみれば、間違われるのは嫌なのだろう。
おまけに、香花から見れば、自分は〝おじさん〟と呼ばれてもおかしくはないほど歳が離れている。光王に気を遣って、これまで否定したくても、できなかっただけのことだ。
なのに、自分は一人で何を良い気になっていたのか。
先ほどの露店で初めてこのノリゲを眼にした時、すぐに珊瑚の簪のことが頭に浮かんだ。まるで簪とお揃いで誂えたようなノリゲに、ひとめで心奪われてしまった。あの香花にとっては宝物ともいえる簪と一緒にチョゴリの紐に結んで使えば素敵だろうなと考えたのだ。
光王が訳もなく、こんな風な黙(だんま)りになってしまうことなんて、これまで一度もなかった。それが自分のせいなのだと判っているからこそ、香花は尚更、哀しくなってしまった。
しかし。
当の光王は全く別のことを考えていたのである。
露天商の老人から、夫婦だと勘違いされた時、光王の心境としては実のところ、満更でもなかった。都を出てから色々な町を通過してきたものの、香花と自分が夫婦や恋人同士に間違われたのは、既にもう数え切れないほどになっていたからでもある。
これまでは、香花はそう言われて格別嬉しそうでもなかったが、迷惑そうでもなかった。曖昧な笑顔でその場をやり過ごしていたのだ。が、何故か、今日ばかりは、即座にきっぱりと否定した。
当然といえば、当然だ。香花と自分は夫婦どころか許婚者でもなく、恋人でもない。香花にしてみれば、間違われるのは嫌なのだろう。
おまけに、香花から見れば、自分は〝おじさん〟と呼ばれてもおかしくはないほど歳が離れている。光王に気を遣って、これまで否定したくても、できなかっただけのことだ。
なのに、自分は一人で何を良い気になっていたのか。