月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】
第6章 第2話【燕の歌~Swallow song】・新しい町
少年が深々とお辞儀をして片端へ寄ると、今度はまた一段と賑々しい音楽が鳴り渡る。
「さて、これなるは我らが一座の花形、天(チヨン)月(ウォル)の華麗なる綱上の舞」
親方がまたも耳も塞ぎたくなるような声で叫ぶと同時に、艶(あで)やかな美女が妖艶に微笑み、バサッと手にした扇を開く。その扇を片手で高々と掲げ、舞うように身体を揺らしながらゆったりと綱を渡り始めたかと思いきや、いきなり速度を上げて全速力で綱の上を駆けた。
またしても見物人たちが感嘆の声を洩らす。綱を見事に渡り終えた美女が再び艶やかな笑みをその麗しい面に浮かべると、集まった観客たちはその艶麗な笑顔に皆、魅了された。中には衣裳から時折、ちらりとかいま見える白い膚に眼を奪われ、その下に隠された彼女のふくよかな肢体に釘付けの男もいて―、傍らの女房に力任せに耳を引っ張られ顔をしかめる情けない姿も見られた。
再びシンバルが鳴り、美女が綱から地上へと鮮やかな着地を決める。更に続いて、少年が宙返りをしてから、美女の差しのべた腕へと無事、おさまった。
美女が少年を軽々と抱き上げ、二人は同時に揃って優雅に一礼して見せる。
割れんばかりの拍手が鳴り止まぬ中、息をもつかせぬ芸の一部始終を見守っていた香花の傍らで声がした。
「それにしても酷い話じゃねえか」
「ああ、使道の屋敷で死んじまった使用人ってのも、丁度、あれくらいの歳の子どもだって聞いたぜ」
どうやら、どこかの下男らしい男たち二人が小声で囁き合っているようだ。
「全く血も涙もないってのは、ああいう奴のようなことを言うんだろうな」
と、香花の傍ら―男たちとは香花を隔てていた光王がズイと身を乗り出した。
「さて、これなるは我らが一座の花形、天(チヨン)月(ウォル)の華麗なる綱上の舞」
親方がまたも耳も塞ぎたくなるような声で叫ぶと同時に、艶(あで)やかな美女が妖艶に微笑み、バサッと手にした扇を開く。その扇を片手で高々と掲げ、舞うように身体を揺らしながらゆったりと綱を渡り始めたかと思いきや、いきなり速度を上げて全速力で綱の上を駆けた。
またしても見物人たちが感嘆の声を洩らす。綱を見事に渡り終えた美女が再び艶やかな笑みをその麗しい面に浮かべると、集まった観客たちはその艶麗な笑顔に皆、魅了された。中には衣裳から時折、ちらりとかいま見える白い膚に眼を奪われ、その下に隠された彼女のふくよかな肢体に釘付けの男もいて―、傍らの女房に力任せに耳を引っ張られ顔をしかめる情けない姿も見られた。
再びシンバルが鳴り、美女が綱から地上へと鮮やかな着地を決める。更に続いて、少年が宙返りをしてから、美女の差しのべた腕へと無事、おさまった。
美女が少年を軽々と抱き上げ、二人は同時に揃って優雅に一礼して見せる。
割れんばかりの拍手が鳴り止まぬ中、息をもつかせぬ芸の一部始終を見守っていた香花の傍らで声がした。
「それにしても酷い話じゃねえか」
「ああ、使道の屋敷で死んじまった使用人ってのも、丁度、あれくらいの歳の子どもだって聞いたぜ」
どうやら、どこかの下男らしい男たち二人が小声で囁き合っているようだ。
「全く血も涙もないってのは、ああいう奴のようなことを言うんだろうな」
と、香花の傍ら―男たちとは香花を隔てていた光王がズイと身を乗り出した。