月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】
第6章 第2話【燕の歌~Swallow song】・新しい町
「兄さん、子どもが死んじまったって聞いたが、そいつは良くねえな。一体、何の話だい」
「何だ、お前は」
突如として現れた光王を、背の高い方の男が不審そうに見る。どちらもまだ若く、二十歳そこそこといった感じだ。光王よりはわずかに若いだろう。
「この町ではあまり見かけたことのない顔だな、旅の者か?」
詰問口調で言ったのは、背の低い小太りの方。二人とも警戒心を露わにしている。とはいえ、それも無理はない。話題がここら一体を治める使道に関して、しかも良からぬ話であるだけに、万が一にも聞き咎められ使道本人に知られては、酷い罰を与えられると怯えているのだ。
「漢陽から来た旅の者なんだが、ここに着く前の町でガキを亡くしちまってなあ。まだ産まれたばかりの赤ン坊だったから、不憫でならねえんだ。女房が長旅の途中で産気づいちまったもんだからよう」
いかにも哀しげに声を震わせる光王に香花が唖然としていると、光王がちらりと意味ありげに一瞥する。
話を合わせろと言っているのだ。
「そいつは気の毒だ。子どもは男の子だったのか、女の子だったのか?」
人の好さそうな小柄な男が気の毒そうに訊ねてくる。
香花もまた眼を伏せ、か細い声で応えた。
「―この人によく似た男の子でした。まだ名前も付けない中に可哀想に」
「そいつは良くねえよ、おかみさん。幾ら産まれてわずかも生きなかった赤児でも、ちゃんと名前は付けてやらねえと、成仏できねえって昔から言うじゃないか。今からでも遅くねえから、名前をつけてやりなよ」
背の高い痩せぎすの方も親身になって言ってくる。
「何だ、お前は」
突如として現れた光王を、背の高い方の男が不審そうに見る。どちらもまだ若く、二十歳そこそこといった感じだ。光王よりはわずかに若いだろう。
「この町ではあまり見かけたことのない顔だな、旅の者か?」
詰問口調で言ったのは、背の低い小太りの方。二人とも警戒心を露わにしている。とはいえ、それも無理はない。話題がここら一体を治める使道に関して、しかも良からぬ話であるだけに、万が一にも聞き咎められ使道本人に知られては、酷い罰を与えられると怯えているのだ。
「漢陽から来た旅の者なんだが、ここに着く前の町でガキを亡くしちまってなあ。まだ産まれたばかりの赤ン坊だったから、不憫でならねえんだ。女房が長旅の途中で産気づいちまったもんだからよう」
いかにも哀しげに声を震わせる光王に香花が唖然としていると、光王がちらりと意味ありげに一瞥する。
話を合わせろと言っているのだ。
「そいつは気の毒だ。子どもは男の子だったのか、女の子だったのか?」
人の好さそうな小柄な男が気の毒そうに訊ねてくる。
香花もまた眼を伏せ、か細い声で応えた。
「―この人によく似た男の子でした。まだ名前も付けない中に可哀想に」
「そいつは良くねえよ、おかみさん。幾ら産まれてわずかも生きなかった赤児でも、ちゃんと名前は付けてやらねえと、成仏できねえって昔から言うじゃないか。今からでも遅くねえから、名前をつけてやりなよ」
背の高い痩せぎすの方も親身になって言ってくる。