月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】
第6章 第2話【燕の歌~Swallow song】・新しい町
「弔いは出してやったのかい?」
丸顔で小太りの男が訊ねると、光王が大袈裟な吐息を吐き、首を振った。
「何せ旅先だったもので、満足なことは何一つしてやれなかったんだ」
「そりゃア、ますます良くねえや。名前もねえし、弔いもして貰えなかったんじゃ、成仏どころか生まれ変わってもこれねえぜ。兄さんよう、悪いことは言わねえ。俺んちも去年の春、一人息子が産まれてさ。子どもを持つ親の気持ちはようく判る。あんたも子どもが可愛いんなら、早くちゃんとした弔いを出してやりな。そうしてやりゃア、死んだ息子もまたすぐに生まれ変わって、また、あんたのところに来るよ」
見かけによらず情に脆そうな背の高い男は滑稽なほど狐に似ている。
「そうだ、そうだ、奥さんはまだ若いんだからよ、落ち込む間もねえ。することをちゃんと毎晩してりゃ、直に二人目が授かるよ。そのためにも、早く弔いを出してやれよ、何なら、俺の知り合いの寺を紹介してやろうか」
とまで言い出す丸顔の男は、何となく狸に似ている。
などと二人の顔を見ていたら、思わず吹き出しそうになり、香花は慌てて顔を伏せた。
善良なこの二人を騙す自分がとんでもない悪者のような気がしてくる。
丸顔で小太りの男が訊ねると、光王が大袈裟な吐息を吐き、首を振った。
「何せ旅先だったもので、満足なことは何一つしてやれなかったんだ」
「そりゃア、ますます良くねえや。名前もねえし、弔いもして貰えなかったんじゃ、成仏どころか生まれ変わってもこれねえぜ。兄さんよう、悪いことは言わねえ。俺んちも去年の春、一人息子が産まれてさ。子どもを持つ親の気持ちはようく判る。あんたも子どもが可愛いんなら、早くちゃんとした弔いを出してやりな。そうしてやりゃア、死んだ息子もまたすぐに生まれ変わって、また、あんたのところに来るよ」
見かけによらず情に脆そうな背の高い男は滑稽なほど狐に似ている。
「そうだ、そうだ、奥さんはまだ若いんだからよ、落ち込む間もねえ。することをちゃんと毎晩してりゃ、直に二人目が授かるよ。そのためにも、早く弔いを出してやれよ、何なら、俺の知り合いの寺を紹介してやろうか」
とまで言い出す丸顔の男は、何となく狸に似ている。
などと二人の顔を見ていたら、思わず吹き出しそうになり、香花は慌てて顔を伏せた。
善良なこの二人を騙す自分がとんでもない悪者のような気がしてくる。