月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】
第6章 第2話【燕の歌~Swallow song】・新しい町
「そんなわけで、自分が子どもを亡くしたばかりなもんで、子どもが死んだなんて話をちらっとでも耳にしたら、到底、他人事とは思えなくてさ」
光王が物憂い声で言うと、狐と狸は互いに顔を見合わせ、ふんふんと頷いた。
「兄さんは旅の人だから、よくは知らないだろうが、そりゃア、ここいらを治める使道は酷え奴さ。あいつが赴任してきてからこっち、ここ一帯に住む者は皆、戦々恐々としてるよ。強欲で見栄っ張り、おまけに無類の女好きときてるからね。おかみさんも器量良しだから、使道の野郎にくれぐれも見つからないようにしな。気に入った女なら、相手が他人の女房であろうがなかろうが、見境なしだもんな」
なあ、と、顔を見合わせ頷き合う二人に、光王が控えめに問うた。
「ところで、兄さんたちは先刻、その使道の屋敷の使用人が殺されたって話していたけど、その使用人ってのが子どもだったのかい」
「そうなのさ」
狸顔の方が光王に身を寄せてくる。
どうやら、産まれたばかりの赤ン坊を亡くした云々のでっち上げ話で、二人は光王への警戒心を解いてしまったらしい。
「酷い話だ。何でも国王(チユサン)殿下(チヨナー)より拝領した家宝の壺を割っちまったとかで、滅多蹴りにされたらしい。その子は少々頭の回転が遅くて、お屋敷でもヘマばかりして、かねてから使道は苛立ってたとかいうけどな。滅多蹴りにされて、それでも半日ほどは元気にしてたのに、朝起きないんで一緒に寝ていた年嵩の下男が揺り起こしてみたら、もう事切れてたっていうぜ。確証はないが、あれだけ酷い折檻されたんだから、間違いなく使道のせいで死んだんだって、もう町中の噂さ」
光王が物憂い声で言うと、狐と狸は互いに顔を見合わせ、ふんふんと頷いた。
「兄さんは旅の人だから、よくは知らないだろうが、そりゃア、ここいらを治める使道は酷え奴さ。あいつが赴任してきてからこっち、ここ一帯に住む者は皆、戦々恐々としてるよ。強欲で見栄っ張り、おまけに無類の女好きときてるからね。おかみさんも器量良しだから、使道の野郎にくれぐれも見つからないようにしな。気に入った女なら、相手が他人の女房であろうがなかろうが、見境なしだもんな」
なあ、と、顔を見合わせ頷き合う二人に、光王が控えめに問うた。
「ところで、兄さんたちは先刻、その使道の屋敷の使用人が殺されたって話していたけど、その使用人ってのが子どもだったのかい」
「そうなのさ」
狸顔の方が光王に身を寄せてくる。
どうやら、産まれたばかりの赤ン坊を亡くした云々のでっち上げ話で、二人は光王への警戒心を解いてしまったらしい。
「酷い話だ。何でも国王(チユサン)殿下(チヨナー)より拝領した家宝の壺を割っちまったとかで、滅多蹴りにされたらしい。その子は少々頭の回転が遅くて、お屋敷でもヘマばかりして、かねてから使道は苛立ってたとかいうけどな。滅多蹴りにされて、それでも半日ほどは元気にしてたのに、朝起きないんで一緒に寝ていた年嵩の下男が揺り起こしてみたら、もう事切れてたっていうぜ。確証はないが、あれだけ酷い折檻されたんだから、間違いなく使道のせいで死んだんだって、もう町中の噂さ」