月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】
第6章 第2話【燕の歌~Swallow song】・新しい町
続いて、狐顔の男が話を引き取る。
「その後がまた酷いんだよ。その子どもの両親が亡骸を引き取りにきたら、使道の奴、何て言ったと思う? 本当なら、その場で切り棄てても良かったほどの重い罪を犯したのに、生かしてやっておいたのをありがたく思えと、そう抜かしたんだと。子どもの親父がそう言って弔いの日に号泣してたよ」
「幾ら国王さまの壺を割ったかどうか知らねが、たかだか壺一つだろ? それを先のある十一の子どもの生命と両天秤にかけるどころか、壺の方が大切だとあの鬼のような男は言うんだよ。そんなのって、あるかい? 兄さん、大きな声じゃ言えないが、人の生命よりも重いものって、他にあるのか? 俺たちは両班に死ねと言われれば、死ぬしかないような身分だが、同じ人間であることに変わりはないだろ? 生命の重さや大切さに、両班や賤民だってことに何の関係があるっていうだい?」
小太りの男が拳を握りしめる。その拳が小刻みに震えているのを、香花は確かに見た。
「おい、興奮するなよ。声が大きいぞ。こんな話をそれこそ使道に聞かれてみろ、俺たちもただじゃア、済まないぞ」
狐顔の男が宥めるように肩を叩き、光王に囁いた。
「とにかく使道の奴には気をつけた方が良いってことだ。今の話は忘れてくれ。あんたらも子どもの弔いが済んだら、この町を離れた方が良い。特に綺麗すぎる嫁さんを連れてる場合はね」
背の高い男が小太りの男の肩を抱くようにして、二人は足早に去っていった。
その後、光王は何を思ったか、香花を連れて酒場に行った。小さな酒場は、どこにでも見かけるような、ありふれた作りである。
野外に卓や椅子を置き、客はそこで飲み食いをする。酒場と言っても、飯も出すし、いわば酒も出す大衆食堂のようなものだ。
「その後がまた酷いんだよ。その子どもの両親が亡骸を引き取りにきたら、使道の奴、何て言ったと思う? 本当なら、その場で切り棄てても良かったほどの重い罪を犯したのに、生かしてやっておいたのをありがたく思えと、そう抜かしたんだと。子どもの親父がそう言って弔いの日に号泣してたよ」
「幾ら国王さまの壺を割ったかどうか知らねが、たかだか壺一つだろ? それを先のある十一の子どもの生命と両天秤にかけるどころか、壺の方が大切だとあの鬼のような男は言うんだよ。そんなのって、あるかい? 兄さん、大きな声じゃ言えないが、人の生命よりも重いものって、他にあるのか? 俺たちは両班に死ねと言われれば、死ぬしかないような身分だが、同じ人間であることに変わりはないだろ? 生命の重さや大切さに、両班や賤民だってことに何の関係があるっていうだい?」
小太りの男が拳を握りしめる。その拳が小刻みに震えているのを、香花は確かに見た。
「おい、興奮するなよ。声が大きいぞ。こんな話をそれこそ使道に聞かれてみろ、俺たちもただじゃア、済まないぞ」
狐顔の男が宥めるように肩を叩き、光王に囁いた。
「とにかく使道の奴には気をつけた方が良いってことだ。今の話は忘れてくれ。あんたらも子どもの弔いが済んだら、この町を離れた方が良い。特に綺麗すぎる嫁さんを連れてる場合はね」
背の高い男が小太りの男の肩を抱くようにして、二人は足早に去っていった。
その後、光王は何を思ったか、香花を連れて酒場に行った。小さな酒場は、どこにでも見かけるような、ありふれた作りである。
野外に卓や椅子を置き、客はそこで飲み食いをする。酒場と言っても、飯も出すし、いわば酒も出す大衆食堂のようなものだ。