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月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】

第6章 第2話【燕の歌~Swallow song】・新しい町

 それでも狭い場所は大勢の客でごった返すほどの賑わいを見せている。今は生憎満員だからと断られそうになったところ、奥から愛想の良い声がかかった。
「女将、俺んとこで良かったら、構わないぜ」
 そのひと声で、光王はその奥まった一角に席を取った。
 向かいに座る男は将仁(ジヤンイン)と名乗った。歳は四十代前半といったところか。元は町いちばんの工房で働いていたと話す彼の身の上話から、どうやら、露天商の老人の言っていた工房の職人らしいことが判った。
「ま、ここで相席になったのも何かの縁ってことで」
 ジャンインは銚子を持つと、光王の持つ盃に並々と注いだ。陽気な質らしく、朗らかに喋り、よく笑った。到底、あの老人の言うようにいわくある工房にいたとは思えないほどだ。
「兄さんは旅のお人かい?」
 傍らに座る香花と光王を交互に眺め、ジャンインが言った。見かけない顔ということに加え、二人共に人眼を引く美貌というのが目立つ原因なのだ。
「ええ、都から来ました」
 普段はぞんざいな光王の物言いがやけに丁寧なのは、相手がどんな人物かどうかまだ図りかねているからだ。一瞬で相手を読める人物に対しては、光王はもっと砕けた物言いをする。
「兄さん、この町を見て、どう思う?」
 光王が切れ長の瞳をわずかに眇めた。ジャンインという男がただ者でないと踏んだのだ。
「おいおい、そんなおっかねえ顔しないでくれよ。まるで視線だけで俺を射殺せそうな怖え眼してるぜ」
「何故、俺にそのようなことを訊く?」
 低い声で訊ねた光王に、ジャンインは屈託ない笑みを見せた。

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