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月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】

第6章 第2話【燕の歌~Swallow song】・新しい町

 光王がハッとジャンインを見る。
「貴様、俺を試したのか?」
「真、盗人にしておくには惜しい人物と見た。誰が米の値段を不当に引き上げ、暴利を得ているか。この町のありのまま姿をとくと見ておくが良い。光王」
「―!!」
 思わず立ち上がり、再び懐の小刀に手を伸ばしそうになった光王の上着の裾を香花は掴んだ。
「光王、お願い、止めて」
 光王が我に返ったような表情で、香花を見つめる。
「ね、光王、お願いだから。ここは我慢して」
 懸命な面持ちで訴えると、光王が初めてホウと大きな息を吐いた。
「先刻も言ったはずだ。俺はお前さんの敵ではない。だが、はっきりと言うが、味方というわけでもない。この件に関して、お前さんは動くな。できれば、俺はお前さんの敵にはなりたくはない」
 ジャンインの言葉は実に謎めいていた。
 急に立ち上がった光王に、香花は慌てる。
「光王、どうしたの?」
「興ざめだ」
 光王は憮然として言うと、漸く空いた別の席へと移動した。
 光王が席を立った後、ジャンインは立ち上がると、隣の席でたむろっていた男たちの許に行った。
「よう、昼間っから酒をかっくらってるとは、良い身分だな」
 隣の席にいた数人は皆、似たような歳格好の男ばかりで、いずれもが職人だったり、使い走りの下男だったりした。
 ジャンインの言葉にも、男たちは機嫌を悪くする風もなく、ゲラゲラと笑った。

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