月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】
第6章 第2話【燕の歌~Swallow song】・新しい町
男たちの話題が光王から逸れたのを見計らったように、ジャンインがジャンシルと呼ばれた男の側ににじり寄る。
「それはそうと、ジャンシル。米の値段がまた上がったぜ」
小声で囁くと、ジャンシルもまたしたり顔で頷き、潜めた声で応じた。
「どうせ使道の差し金だろう。たまらねえな。どうして元から金のある奴はますます肥え太って、一生懸命汗水垂らして、あくせく働く俺らは、いつまで経っても貧乏なまんまなんだ?」
「あの府使が来てからっていうもの、ここいらの民の暮らしは酷くなる一方だ」
別の男が言い、ジャンシルが頷いた。
「おう、ところで、監察御使が来るって話は、一体、どうなってるんだ?」
話を振られたジャンインは大袈裟なほどに顔をしかめた。
「俺なんかに訊かれたって、知るわけがねえだろう。監察御使なんて所詮、使道と同じ両班だからな。どこまで当てにできるかは判らないさ」
ジャンシルが盛大な溜息をつく。
「かと言って、今は監察御使が一日も早く来て、見たありのままを都の国王さまにお伝えしてくれるのを待つしかねえじゃないか。他に何の救いがあるっていうんだ」
「知らねえよ。俺んちだって、一年前、工房が潰れちまって大変なんだよ。他人さまのことどころじゃねえや」
ジャンインがぼやくのに、ジャンシルが笑う。
「何だ、お前はその歳になってもまだ独り身だろうが。手前一人食べてゆくんなら、俺たちだって苦労しねえや。女房子どもがいるから、先のことまで心配するんだよ」
「そう言やア、ジャンインがこの町に来て、そろそろ二年か」
「それはそうと、ジャンシル。米の値段がまた上がったぜ」
小声で囁くと、ジャンシルもまたしたり顔で頷き、潜めた声で応じた。
「どうせ使道の差し金だろう。たまらねえな。どうして元から金のある奴はますます肥え太って、一生懸命汗水垂らして、あくせく働く俺らは、いつまで経っても貧乏なまんまなんだ?」
「あの府使が来てからっていうもの、ここいらの民の暮らしは酷くなる一方だ」
別の男が言い、ジャンシルが頷いた。
「おう、ところで、監察御使が来るって話は、一体、どうなってるんだ?」
話を振られたジャンインは大袈裟なほどに顔をしかめた。
「俺なんかに訊かれたって、知るわけがねえだろう。監察御使なんて所詮、使道と同じ両班だからな。どこまで当てにできるかは判らないさ」
ジャンシルが盛大な溜息をつく。
「かと言って、今は監察御使が一日も早く来て、見たありのままを都の国王さまにお伝えしてくれるのを待つしかねえじゃないか。他に何の救いがあるっていうんだ」
「知らねえよ。俺んちだって、一年前、工房が潰れちまって大変なんだよ。他人さまのことどころじゃねえや」
ジャンインがぼやくのに、ジャンシルが笑う。
「何だ、お前はその歳になってもまだ独り身だろうが。手前一人食べてゆくんなら、俺たちだって苦労しねえや。女房子どもがいるから、先のことまで心配するんだよ」
「そう言やア、ジャンインがこの町に来て、そろそろ二年か」