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月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】

第6章 第2話【燕の歌~Swallow song】・新しい町

 明らかに光王を〝義賊光王〟だと知っている謎の男ジャンイン。敵でもないが、味方でもないと言い切ったあの男には注意が必要だろう。
 何より、ジャンインは光王の正体を知っているのだ。今は敵ではないが、今後はどうなるか知れたものではない。
―この件に関して、お前さんは動くな。できれば、俺はお前さんの敵にはなりたくはない。
 今更ながらに、あの男が口にした意味ありげな科白が気になってならない。
 〝この件〟というのは、この町でも話題に度々上っている悪徳役人使道のことを指すのだろうか。天下の義賊である光王が罪なき民を苦しめる使道をこのままおめおめと見過ごすはずがないと、あの男は読んでいるのだろうか。
 つまり、使道の件に関して光王が少しでも動けば、ジャンインは光王の〝敵〟となるというのか?
 去ってゆく光王と香花の後ろで、ジャンインが何か言って男たちを笑わせ、その場が沸く。思わず香花が振り返ると、ジャンインがじいっとこちらを見つめてた。
 鋭い視線―心の奥底まで見通すような視線と出逢い、香花は慌てて前を向き、光王を追いかける。
 やはり、ただの男ではない。それは香花の直感だったが、その勘が外れてはいないことを彼女は確信していた。
「光王、ねえ、待ってよ」
 何だか最近、自分は光王の後ばかり追いかけているような気がする。この町に来てからというもの、光王は少し変わった。いつものように明るくて、香花をからかうようなことばかり口にするかと思ったら、突然黙り込んで、まるで冷淡になり、香花になど視線もくれない。

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