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月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】

第7章 春の宵

 確かに服屋に納品するよりは実入りは良かったけれど、香花は光王に他の女と寝てまで仕事を貰ってくるようなことはして欲しくなかった。だが、それは香花の我が儘というものだろう。光王のお陰で、香花は稼ぎの良い仕事を得られるのだし、第一、彼がどこで何をしようが、香花が口を出せる筋合いではない。
 起居を共にしてはいるけれど、自分と光王はあくまでも単なる同居人にすぎないのだ。
 光王は何故か、香花が町にゆくのを嫌った。何でも、好色な使道の眼に止まっては一大事だと言い張るのだが、さして綺麗でもない自分が幾ら好き者で通っているとはいえ、使道に眼を付けられるとも思えない。香花自身は少なくともそう思っている。
―使道がよほどの物好きなら、話もまた別かもしれないけど。
 香花が言うと、光王は物凄い眼で睨んだ。
―お前は自分のことがまだよく判ってないんだ。
―それ、どういう意味? 私はもう十四よ、もう直、年が明ければ十五だわ。自分のことくらい、自分でよおく判ってるわよ。どうしてそうやって、いつまでも私を子ども扱いするのよ? 
 光王は何も言わず、背を向けた。香花は更に言い募る。
―お願い、じゃあ、年が明けたら、町に行かせて。十五になったら、自由にしても良いでしょ。
―駄目だ、十五になったら、尚更、お前をあんなところに一人で行かせられるか。
 とにかく光王は〝駄目だ〟の一点張りで、話にならない。
―どうして、駄目なの? ねえ、光王。
 香花は叫んだが、光王はそのままプイと外に出てしまい、結局、その話はそれで終わりになってしまった。

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