月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】
第7章 春の宵
村に住むようになってふた月が経ち、年が明けた。新しい年になった早々、香花はある日、ひそかに一人で町に出た。その日は丁度、光王の誕生日だと聞いていたのである。香花なりに何かささやかでも良いから贈り物をしたいと思って、朝、光王がいつものように家を出た後、こっそりと出かけたのだ。
既に贈り物としては、ひと月かけて縫い上げた上着とズボンのひと揃いがある。他にも何か気のきいたものを―と思って軒を連ねる露店を見て回っても、とうとう、これといった物はなかった。
やっと選んだのが光王の大好物の蒸し饅頭というのは、我ながら少々能がなさ過ぎると思うけれど、仕方ない。
今日も町の目抜き通りには露店が集い、大勢の通行人が行き交っている。こういった光景だけを見れば、多少、規模は小さくなるが、都の賑わいと大差ないようにも見える。
しかし、朗らかにふるまっている人々のどこかに常に怯えが潜んでいるようにも見え、どの店で商っている品も法外の値がついているのは、やはり、この町が尋常でない状態にあることを示しているといえるだろう。
「蒸し饅頭五個でこれだけ取られるとは思わなかったわ~。今夜はご馳走しようと思ってたのに、お粥で我慢ね。あ、でも、折角の誕生日なのに、お粥っていうのもねえ。じゃあ、明日の夜をお粥にして、今夜は予定どおりにご馳走? 蒸し鶏とキムチ鍋。うん、これで決まりね」
香花は随分と中身が減り軽くなった巾着を懐にねじ込み、一人で呟く。キムチ鍋は光王の好物の一つである。とにかく名前をキムチにすれば良いのにと思うほど、キムチの好きな男なのだ。キムチの漬ける素を鶏肉に塗って、じっくりと火で焙ったものは特に好物だ。
ぶつぶつと呟きながら歩く香花を通りすがりの中年の女が気味悪そうに見ているのにも気付かない。
既に贈り物としては、ひと月かけて縫い上げた上着とズボンのひと揃いがある。他にも何か気のきいたものを―と思って軒を連ねる露店を見て回っても、とうとう、これといった物はなかった。
やっと選んだのが光王の大好物の蒸し饅頭というのは、我ながら少々能がなさ過ぎると思うけれど、仕方ない。
今日も町の目抜き通りには露店が集い、大勢の通行人が行き交っている。こういった光景だけを見れば、多少、規模は小さくなるが、都の賑わいと大差ないようにも見える。
しかし、朗らかにふるまっている人々のどこかに常に怯えが潜んでいるようにも見え、どの店で商っている品も法外の値がついているのは、やはり、この町が尋常でない状態にあることを示しているといえるだろう。
「蒸し饅頭五個でこれだけ取られるとは思わなかったわ~。今夜はご馳走しようと思ってたのに、お粥で我慢ね。あ、でも、折角の誕生日なのに、お粥っていうのもねえ。じゃあ、明日の夜をお粥にして、今夜は予定どおりにご馳走? 蒸し鶏とキムチ鍋。うん、これで決まりね」
香花は随分と中身が減り軽くなった巾着を懐にねじ込み、一人で呟く。キムチ鍋は光王の好物の一つである。とにかく名前をキムチにすれば良いのにと思うほど、キムチの好きな男なのだ。キムチの漬ける素を鶏肉に塗って、じっくりと火で焙ったものは特に好物だ。
ぶつぶつと呟きながら歩く香花を通りすがりの中年の女が気味悪そうに見ているのにも気付かない。