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月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】

第1章 第一話【月下にひらく花】転機

 出しゃばりな小娘だと思われたのだろうか。そう思うと、眼の前が真っ暗になったようだ。
「申し訳(ハンゴン)あり(ハオ)ません(ニダ)。やはり、私が出しゃばりすぎたようです」
 哀しげにうなだれて立ち上がろうとする香花に、明善が声をかけた。
「待ちなさい」
 香花が動きを止め、香花を見つめる。
「済ま(ミヤ)ない(ナオ)」
 逆に謝られ、今度は香花の方が眼を丸くした。
「私の方こそ、先生には謝らなければならない。先生はれきとした家庭教師だ。子どもたちの先生としてお招きした方にまるで女中のようなことをさせている。本当に申し訳ないと思う」
「そんな―、私が全部勝手にしていることですもの」
 叔母が事前に言ったように、崔家の屋敷には本当に使用人がいなかった。まだ若い下男の為(ウィ)吉(ギル)と女中の誠(ソン)節(ジヨル)の二人だけだ。誠節はもう六十近い高齢で、この頃は持病の腰痛に加えて眼まで見えなくなってきたので、代わりに香花が厨房での煮炊きや繕い物を引き受けることも多い。
 為吉は二十歳をわずかに過ぎた若者で、こちらは仕事の合間に字を教えてやったりしている。あまり優秀な生徒とはいえないが、熱心なことは熱心だ。もっとも、字を教えてやっている間も、ウィギルは心ここにあらずで、本よりも香花の顔を惚けたように眺めていることに、香花は全く気付いてもいない。
 元々、早くに母を亡くした金家では、香花が一人で家事をこなしていた。父の給料だけでは何人もの使用人を雇うのは土台無理で、使用人の数でいえば金家も崔家も似たようなものだった。殊に父が亡くなってからは、すべての使用人に暇を出し、一人暮らしだったのだ。

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