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月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】

第7章 春の宵

 このような公衆の面前で盗みの疑いをかけられ、あまつさえ、裸にまでなっては生きてはいられない。
「―」
 流石に男も気圧された風を見せたが、役人がニヤついた顔で言った。
「良いではないか、真にこの娘が盗っ人なら、間違いなく盗んだ財布が出てくるはずだ。されば、最早、言い逃れはできぬ。良いな、娘。もし、財布が出てきたら、そなたの身柄は即刻、役所に連行するぞ」
 最後は香花に威嚇するように言い、役人が顎をしゃくる。
「愚図愚図しておらず、さっさと脱げ」
「そうだ、そうだ、早くやってくれ」
「可愛いお姉ちゃん、綺麗な身体を早く見せてくれよ」
 役人だけでなく、集まった野次馬たちからもはやし声が飛んでくる。
 香花は、あまりのなりゆきに眼に熱いものが込み上げてきた。
 でも、こうなったからには、もうやるしかない。香花は唇をこれ以上はないというほど強く噛み、チョゴリの紐に手をかけた。
 溢れた涙がポロリと頬をつたう。
 誰かが口笛を吹き鳴らし、役人も男も、その場に居合わせた男という男の眼に淫猥な光が瞬いているが、香花に気付くゆとりがあるはずもない。
 手が震え、なかなか思うように動かない。戦慄く手でやって紐を解いた時、傍らから、その手をそっと押さえた大きな手があった。
「―!」
 香花が弾かれたように面を上げると、そこには若者の優しい笑顔があった。

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