
月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】
第7章 春の宵
香花は若者に向き直った。
「お言葉を返すようですが、あの人はこの財布には、ひと月分の給金が入っているのだと言いました。もし、この財布が戻ってこなければ、一家で首を括る羽目になるのだとも。そんな言葉を聞いているのに、知らぬ顔など私にはできません。たとえ自分が罪を着せられて役所に突き出されたとしても、他人が自分のために死ぬのを見るよりはマシです」
「あなたという人は」
若者が感に堪えたように呟いた。
「―あなたの気持ちはよく判りました。では、こうすれば、いかがでしょう。私がこの財布を人を通じて、あの男の許にちゃんと届くように計らいます。男にはよく言い含めて十分に口止めはしますから、あの者の口からこの件に関して二度とあなたの話が出ることはないでしょう」
「本当にお願いしても良いのですか?」
香花が見つめると、若者は照れたように頭をかいた。
「任せて下さい。あなたの優しい気持ちに報いるためにも、責任を持ってあの者の手に戻るように手配します」
「助けて頂いた上に、厚かましいお願いを致しますが、どうぞよろしくお願いします」
「承知しました」
若者が財布を受け取り、笑顔で頷いたその時、香花は背後から痛いほど肩を誰かに強く掴まれた。
振り向くと、光王が無表情に佇んでいる。
「帰るぞ」
「光王―」
香花は言いかけ、眼前の若者を見た。
若者も物言いたげに光王と香花を見つめている。
「良いから、帰るんだ!」
いきなり膝裏を掬われ、抱き上げられた香花は悲鳴を上げた。
「お言葉を返すようですが、あの人はこの財布には、ひと月分の給金が入っているのだと言いました。もし、この財布が戻ってこなければ、一家で首を括る羽目になるのだとも。そんな言葉を聞いているのに、知らぬ顔など私にはできません。たとえ自分が罪を着せられて役所に突き出されたとしても、他人が自分のために死ぬのを見るよりはマシです」
「あなたという人は」
若者が感に堪えたように呟いた。
「―あなたの気持ちはよく判りました。では、こうすれば、いかがでしょう。私がこの財布を人を通じて、あの男の許にちゃんと届くように計らいます。男にはよく言い含めて十分に口止めはしますから、あの者の口からこの件に関して二度とあなたの話が出ることはないでしょう」
「本当にお願いしても良いのですか?」
香花が見つめると、若者は照れたように頭をかいた。
「任せて下さい。あなたの優しい気持ちに報いるためにも、責任を持ってあの者の手に戻るように手配します」
「助けて頂いた上に、厚かましいお願いを致しますが、どうぞよろしくお願いします」
「承知しました」
若者が財布を受け取り、笑顔で頷いたその時、香花は背後から痛いほど肩を誰かに強く掴まれた。
振り向くと、光王が無表情に佇んでいる。
「帰るぞ」
「光王―」
香花は言いかけ、眼前の若者を見た。
若者も物言いたげに光王と香花を見つめている。
「良いから、帰るんだ!」
いきなり膝裏を掬われ、抱き上げられた香花は悲鳴を上げた。
