
月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】
第7章 春の宵
「どうして、あなたはいつまでも私をそうやって子ども扱いするの。私はもう十五よ、小さな子どもじゃないし、一人でどこにだって出かけられるわ」
「この間も言ったはずだ。十五になったら、余計に一人では町に行かせられないと」
「―光王は、こうやって私をいつまでも家に閉じ込めておくつもりなのね」
「そうだ、と言ったら、どうする」
香花がくるりと向き直り、起き上がった。
「ふざけないで。私はあなたの持ち物でもないし、意思のない人形じゃない。そんな風にあなたの言いなりになる必要はないのよ」
光王がその場に長い脚を投げ出し、交差させて座った。手に持った燭台を脇に置く。
室の障子窓の隙間から吹き込む夕風が蝋燭の焔をかすかに揺らす。
「俺は心配なんだ」
ぼそりと言った光王に、香花は首を振る。
「心配してくれるのは判るけど―」
だが、皆まで言わせず、光王は遮った。
「お前に何が判る? お前はどんどん綺麗になって成長してゆく。蛹が蝶になるように、蕾が花開くように、お前は日毎に美しくなっていってる。使道がどんな野郎かは、お前だって十分知ってるはずだ。お前の美しさは人眼を引きすぎる。うっかり使道に見つかりでもしようものなら、どんな酷い目に遭うか判らん。現に今日だって、眼を離せば、あのザマだ。寄りにも寄って、掏摸の疑いをかけられるとは。お前はあまりにも世間を知らなさすぎる」
「ごめんなさい。勝手に出かけたことは謝るわ」
「この間も言ったはずだ。十五になったら、余計に一人では町に行かせられないと」
「―光王は、こうやって私をいつまでも家に閉じ込めておくつもりなのね」
「そうだ、と言ったら、どうする」
香花がくるりと向き直り、起き上がった。
「ふざけないで。私はあなたの持ち物でもないし、意思のない人形じゃない。そんな風にあなたの言いなりになる必要はないのよ」
光王がその場に長い脚を投げ出し、交差させて座った。手に持った燭台を脇に置く。
室の障子窓の隙間から吹き込む夕風が蝋燭の焔をかすかに揺らす。
「俺は心配なんだ」
ぼそりと言った光王に、香花は首を振る。
「心配してくれるのは判るけど―」
だが、皆まで言わせず、光王は遮った。
「お前に何が判る? お前はどんどん綺麗になって成長してゆく。蛹が蝶になるように、蕾が花開くように、お前は日毎に美しくなっていってる。使道がどんな野郎かは、お前だって十分知ってるはずだ。お前の美しさは人眼を引きすぎる。うっかり使道に見つかりでもしようものなら、どんな酷い目に遭うか判らん。現に今日だって、眼を離せば、あのザマだ。寄りにも寄って、掏摸の疑いをかけられるとは。お前はあまりにも世間を知らなさすぎる」
「ごめんなさい。勝手に出かけたことは謝るわ」
