月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】
第1章 第一話【月下にひらく花】転機
香花が物憂げに沈んでいるのを見た明善はすべてを知っているのか、優しい声音で言った。
「どうも、うちの子どもたちは先生を困らせているようだ。折角、得難い方に来て頂いたのに、勿体ない。私の方からもよく言い聞かせておきますよ」
その時、香花は、ふと明善に問うてみたい想いに駆られた。
「旦那さま、一つだけお伺いしてもよろしいですか?」
眼を見開く明善に、香花は真摯な眼を向けた。
「旦那さまは私の父の話を先刻なさいましたが、私の父は皆から変わり者だと言われていました。私をご当家に推薦してくれた叔母でさえ、父が私に学問をさせることには眉を顰めていたのです。今の時代、女に学問など必要ないと誰もが口を揃えて言いました。女は〝内訓〟を読み、婦女子としての心得を修めれば十分、何もわざわざ難しい書物を読んだりする必要はないと。かえって女が物を識りすぎるのは生意気になり、良き妻、母にはなれぬ因(もと)と誹られさえしたのです」
香花は少し躊躇った後、続けた。
「旦那さまは、どのように思われますか? やはり、女が学問をすることは良くないと思し召しますか?」
崔家の長女桃華はいずれ他家に嫁す身である。その娘にも嫡男である林明と共に学ばせていることを思えば、明善の教育方針は自ずと察せられる。しかし、香花は問うてみたい衝動には勝てなかった。
わずかな沈黙が落ちた。やはり、このような話題は生意気すぎたろうか。香花が口にしたことを後悔し始めた時、明善が静かに言った。
「流石は金先生だ。随分と難しいことを考えるのだね」
「どうも、うちの子どもたちは先生を困らせているようだ。折角、得難い方に来て頂いたのに、勿体ない。私の方からもよく言い聞かせておきますよ」
その時、香花は、ふと明善に問うてみたい想いに駆られた。
「旦那さま、一つだけお伺いしてもよろしいですか?」
眼を見開く明善に、香花は真摯な眼を向けた。
「旦那さまは私の父の話を先刻なさいましたが、私の父は皆から変わり者だと言われていました。私をご当家に推薦してくれた叔母でさえ、父が私に学問をさせることには眉を顰めていたのです。今の時代、女に学問など必要ないと誰もが口を揃えて言いました。女は〝内訓〟を読み、婦女子としての心得を修めれば十分、何もわざわざ難しい書物を読んだりする必要はないと。かえって女が物を識りすぎるのは生意気になり、良き妻、母にはなれぬ因(もと)と誹られさえしたのです」
香花は少し躊躇った後、続けた。
「旦那さまは、どのように思われますか? やはり、女が学問をすることは良くないと思し召しますか?」
崔家の長女桃華はいずれ他家に嫁す身である。その娘にも嫡男である林明と共に学ばせていることを思えば、明善の教育方針は自ずと察せられる。しかし、香花は問うてみたい衝動には勝てなかった。
わずかな沈黙が落ちた。やはり、このような話題は生意気すぎたろうか。香花が口にしたことを後悔し始めた時、明善が静かに言った。
「流石は金先生だ。随分と難しいことを考えるのだね」