月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】
第7章 春の宵
同じ頃、香花もまた夜空を仰いでいた。菫色の夜空にぽっかりと懸かった半分だけの月が薄い雲に隠れて朧に滲んで、泣いているように見える。
どうして光王と一緒にいると、いつもああなのだろう。
一旦は止まった涙がまたじんわりと込み上げてきて、香花は思わず手のひらで眼をこする。一月の夜は身体の芯まで凍えそうなほど夜気が冷たい。吐く息が白く冷たい空気に溶けてゆく。
ふいに夜風が吹いてきて、香花は思わず身を震わせた。温かい布団にこのまま倒れ込んで、何も考えず朝までぐっすり眠りたい。でも、光王の待つ家に帰る気にはどうしてもなれなかった。
光王のことは好きだし、信頼もしている。けれど、その気持ちは頼りになる兄への慕わしさに限りなく近く、異性への思慕とは違うような気がするのだ。
私の好きなのは明善さまただ一人だもの。
その兄だと思い込んできた光王が突然、くちづけて―しかも烈しく唇を奪ったのは、香花に烈しい衝撃を与えた。多分、光王の心をひどく傷つけるようなことを迂闊にも香花が口にしてしまったから、光王が怒って、あんなことをしたのだろうとは思う。
さもなければ、光王が子ども扱いする自分をあんな風に求めてきたりはしないだろう。自分なんか、彼がこれまで相手をしてきたあまたの女たちに比べれば、何の魅力もない、ただの子どもだ。
どうして光王と一緒にいると、いつもああなのだろう。
一旦は止まった涙がまたじんわりと込み上げてきて、香花は思わず手のひらで眼をこする。一月の夜は身体の芯まで凍えそうなほど夜気が冷たい。吐く息が白く冷たい空気に溶けてゆく。
ふいに夜風が吹いてきて、香花は思わず身を震わせた。温かい布団にこのまま倒れ込んで、何も考えず朝までぐっすり眠りたい。でも、光王の待つ家に帰る気にはどうしてもなれなかった。
光王のことは好きだし、信頼もしている。けれど、その気持ちは頼りになる兄への慕わしさに限りなく近く、異性への思慕とは違うような気がするのだ。
私の好きなのは明善さまただ一人だもの。
その兄だと思い込んできた光王が突然、くちづけて―しかも烈しく唇を奪ったのは、香花に烈しい衝撃を与えた。多分、光王の心をひどく傷つけるようなことを迂闊にも香花が口にしてしまったから、光王が怒って、あんなことをしたのだろうとは思う。
さもなければ、光王が子ども扱いする自分をあんな風に求めてきたりはしないだろう。自分なんか、彼がこれまで相手をしてきたあまたの女たちに比べれば、何の魅力もない、ただの子どもだ。