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月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】

第8章 すれ違い

   すれ違い

 コンコンコン、コンコンと夜陰に砧打ちの音が響く。香花は意識を手許に集中させようとしてみたが、なかなか思うようにゆかない。自分でも知らない中に吐息が零れ落ち、いつしか手は止まってしまう。ハッと現実に戻ってみると、香花は光王のことを考えているのだった。
 もう、そんなことの繰り返しだ。
 あの出来事―光王と烈しい口論をした夜以来、彼とは殆どろくに口をきかない状態が続いている。あの夜、明け方近くに帰ってきた香花に、光王は何か言いたげだったが、香花は顔を背け自分の部屋に逃げるように飛び込んだのだ。
 家の扉を開けるまでは、ちゃんと光王に自分が言いすぎたことを謝るつもりだった。なのに、いざ光王の顔を見ると、どうしても素直になれず、〝ごめんなさい〟のひと言が言えなかったのだ。
 こんなことは今までなかった。いつも痴話喧嘩ばかりするけれど、どちらからともなく口を開き、気が付いてみれば、変わりなく話をしている。そんな毎日だったのだ。
 あれから何度も話しかけようと努力はしたけれど、やはり駄目だった。光王の顔を目の当たりにすると、嫌が上にも、あの口づけを思い出してしまうのだ。熱い唇を押しつけられ、狂おしく幾度も唇を奪われたあの夜の出来事は、香花にとっては忘れたいような、忘れたくないようなものだ。

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