月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】
第8章 すれ違い
これまで兄のようにしか見ていなかった光王を初めて男性として認識した瞬間でもあった。光王の方にさしたる理由や動機がなく、ただ腹立ち紛れの上での行為だとしても、やはり女性の身にとっては大きな出来事に変わりはない。
刻が経てば経つほど、二人の間の気まずさも溝も深まってゆくばかりなのだと判っているのだから、良い加減に勇気を出した方が良いのかもしれない。今夜こそは、自分からちゃんと謝って仲直りしよう。
あの口づけのことは忘れた方が良い。光王にとっては何の意味もないのに、自分ばかりが拘っているのは、かえって妙だ。
香花が想いに沈んでいる時、表の扉が開く音が聞こえてきた。
香花は慌てて顔を上げる。
「お帰りなさい、疲れたでしょう」
香花は立ち上がりながら、声をかけた。いつもは大抵日暮れ前に帰るのに、今夜はもう夜もかなり更けている。しかし、そのことには触れず、明るい声で続けた。
「今夜はキムチ鍋にしたの。光王の好物でしょ。すぐに温めるわね」
「いや、まだ良い」
「お腹、空いてないの?」
光王が大きな吐息を洩らしたのを、香花は見逃さなかった。
「働き過ぎで疲れてるんじゃない」
「そんなに心配されるほど、無茶はしてない」
光王は苦笑した。久しぶりに見る光王の笑顔に何故か胸が熱くなる。
刻が経てば経つほど、二人の間の気まずさも溝も深まってゆくばかりなのだと判っているのだから、良い加減に勇気を出した方が良いのかもしれない。今夜こそは、自分からちゃんと謝って仲直りしよう。
あの口づけのことは忘れた方が良い。光王にとっては何の意味もないのに、自分ばかりが拘っているのは、かえって妙だ。
香花が想いに沈んでいる時、表の扉が開く音が聞こえてきた。
香花は慌てて顔を上げる。
「お帰りなさい、疲れたでしょう」
香花は立ち上がりながら、声をかけた。いつもは大抵日暮れ前に帰るのに、今夜はもう夜もかなり更けている。しかし、そのことには触れず、明るい声で続けた。
「今夜はキムチ鍋にしたの。光王の好物でしょ。すぐに温めるわね」
「いや、まだ良い」
「お腹、空いてないの?」
光王が大きな吐息を洩らしたのを、香花は見逃さなかった。
「働き過ぎで疲れてるんじゃない」
「そんなに心配されるほど、無茶はしてない」
光王は苦笑した。久しぶりに見る光王の笑顔に何故か胸が熱くなる。