月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】
第8章 すれ違い
光王はしばらくあらぬ方を見つめていたかと思うと、ポツリと言った。
「砧打ちなんか、したこともないんだろう」
「まさか。うちは両班とはいっても、お父上は下級官吏にすぎなかったから、正直言って、裕福ではなかったの。使用人の数だって少なかったし、私は小さいときから何でもしてきたわ。砧打ちだって何度もしたことがあるんだから、そんな心配しないで」
砧とは木や石の台で、木槌で布を売って、布の艶を出し、また和らげるときに使う。
香花は再び手を動かし始めた。トントントンと、白い小さな手が杵を持って器用に布を叩く。光王は物珍しそうに、その様子を側から眺めている。
「それに婚礼が決まったときには両班の娘でも持ってゆく嫁入り衣装は自分で整えるものよ」
「なら、お前も嫁ぐときには、嫁入りに持ってゆく衣裳を自分で砧打ちするんだな」
光王の言葉に、香花は哀しく微笑む。
「私は嫁げないし、嫁ぐ気もないもの」
刹那、光王の切れ長の双眸が香花を射竦めた。
「一生、一人でいるつもりなのか?」
「そうよ」
香花はうつむいているから、光王の眼(まなこ)がすっと細められたのにも気付かない。
「砧打ちなんか、したこともないんだろう」
「まさか。うちは両班とはいっても、お父上は下級官吏にすぎなかったから、正直言って、裕福ではなかったの。使用人の数だって少なかったし、私は小さいときから何でもしてきたわ。砧打ちだって何度もしたことがあるんだから、そんな心配しないで」
砧とは木や石の台で、木槌で布を売って、布の艶を出し、また和らげるときに使う。
香花は再び手を動かし始めた。トントントンと、白い小さな手が杵を持って器用に布を叩く。光王は物珍しそうに、その様子を側から眺めている。
「それに婚礼が決まったときには両班の娘でも持ってゆく嫁入り衣装は自分で整えるものよ」
「なら、お前も嫁ぐときには、嫁入りに持ってゆく衣裳を自分で砧打ちするんだな」
光王の言葉に、香花は哀しく微笑む。
「私は嫁げないし、嫁ぐ気もないもの」
刹那、光王の切れ長の双眸が香花を射竦めた。
「一生、一人でいるつもりなのか?」
「そうよ」
香花はうつむいているから、光王の眼(まなこ)がすっと細められたのにも気付かない。