月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】
第8章 すれ違い
確かに香花の中に、知勇に惹かれている気持ちがないとはいえないけれど、それをどうしようとか、どうしたいと思うわけでもない。その程度のごく淡い想いだった。第一、向こうはこの一帯を治める使道の息子であり、両班の娘とはいえ家門は既に絶えたも同然の香花とは違う。万が一、恋仲になったとしても、二人の恋が成就する可能性は限りなく低い。
人を想い、恋する気持ちは、身分や環境によって左右されるものではない。だとすれば、香花の知勇への想いは所詮は、互いの立場が違うからと理性的に割り切れるだけのものなのかもしれない。
ただ、あの若者の瞳―亡き明善を思わせる淋しげな愁いに満ちた眼だけは、どうしても記憶に灼きついて離れなかった。
飛ぶ鳥を落とす勢いの使道の跡取り息子の瞳に何故、あのような濃い翳りが落ちているのかが気になった。
しかし、どうも光王は知勇との間を誤解しているようだ。
香花はできるだけ平静に見えるように祈りながら、光王に視線を戻す。
感情の窺えぬ瞳で射貫くように見つめられ、香花はまたしてもうつむきそうになるのを懸命に堪えた。
人を想い、恋する気持ちは、身分や環境によって左右されるものではない。だとすれば、香花の知勇への想いは所詮は、互いの立場が違うからと理性的に割り切れるだけのものなのかもしれない。
ただ、あの若者の瞳―亡き明善を思わせる淋しげな愁いに満ちた眼だけは、どうしても記憶に灼きついて離れなかった。
飛ぶ鳥を落とす勢いの使道の跡取り息子の瞳に何故、あのような濃い翳りが落ちているのかが気になった。
しかし、どうも光王は知勇との間を誤解しているようだ。
香花はできるだけ平静に見えるように祈りながら、光王に視線を戻す。
感情の窺えぬ瞳で射貫くように見つめられ、香花はまたしてもうつむきそうになるのを懸命に堪えた。