月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】
第8章 すれ違い
「昨日の夜、使道の屋敷で若い女が庭内の井戸に身を投げたらしい」
香花は、剣呑な話に息を呑む。
光王は事件の顛末を手短に語った。
身投げした女というのは、全家に父祖代々から仕えてきた執事の息子の嫁だという。二十四になるその倅がこの度、めでたく嫁取りをしたのだが、婚礼に顔を出した使道がその嫁をひとめで気に入ってしまったのが事の発端だった。
使道はその女が忘れられず、夜半、執事の息子の家に忍んでゆき、新婚の夢覚めやらぬ新妻を手籠めにした。むろん、息子には何か適当な用事を申しつけ、屋敷の方に詰めさせて家は留守になるように仕向けておいた。
良人である息子は知らなかったが、その後、使道は何度か同じようにして息子が留守の間に家を訪れ、妻を抱いた。
そして、ついにその事実が良人の知るところとなり、若妻はそれを苦にして使道の屋敷の庭まで来て、井戸に身を投げたのである―。
死に場所に使道の屋敷を選んだのは、女のせめてもの意趣返しであったろう。たとえどれほどいやでも、主家のあるじの命であれば、女は拒めなかったはずだ。可哀想に、どれほど悩み苦しみ抜いて、死を選んだことか。
すべてを語り終えた後、光王が左の手のひらに右の拳を打ちつけた。
「酷い話じゃないか。全く良い歳をした親父が、女好きにも呆れるな。そんなに女が欲しいなら、町の妓房(キバン)にでも行って商売女を好きなだけ抱けば良いものを」
香花は、剣呑な話に息を呑む。
光王は事件の顛末を手短に語った。
身投げした女というのは、全家に父祖代々から仕えてきた執事の息子の嫁だという。二十四になるその倅がこの度、めでたく嫁取りをしたのだが、婚礼に顔を出した使道がその嫁をひとめで気に入ってしまったのが事の発端だった。
使道はその女が忘れられず、夜半、執事の息子の家に忍んでゆき、新婚の夢覚めやらぬ新妻を手籠めにした。むろん、息子には何か適当な用事を申しつけ、屋敷の方に詰めさせて家は留守になるように仕向けておいた。
良人である息子は知らなかったが、その後、使道は何度か同じようにして息子が留守の間に家を訪れ、妻を抱いた。
そして、ついにその事実が良人の知るところとなり、若妻はそれを苦にして使道の屋敷の庭まで来て、井戸に身を投げたのである―。
死に場所に使道の屋敷を選んだのは、女のせめてもの意趣返しであったろう。たとえどれほどいやでも、主家のあるじの命であれば、女は拒めなかったはずだ。可哀想に、どれほど悩み苦しみ抜いて、死を選んだことか。
すべてを語り終えた後、光王が左の手のひらに右の拳を打ちつけた。
「酷い話じゃないか。全く良い歳をした親父が、女好きにも呆れるな。そんなに女が欲しいなら、町の妓房(キバン)にでも行って商売女を好きなだけ抱けば良いものを」