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月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】

第8章 すれ違い

 光王の瞳が鋭い閃きを見せる。水晶の欠片が奥底できらめくような瞳に、憎しみと怒りの焔が揺らめいた。
「まさか、光王」
 香花は嫌な予感がして、光王を縋るように見た。
「駄目よ。絶対に駄目。使道を殺そうなんて―考えちゃいないわよね?」
「もう許せない」
 光王はひと言呟き、再び左の拳を右の手のひらに打ちつける。今度は一度では終わらず、二度、三度と続き、それが彼の怒りの烈しさを表していた。
「だって、ジャンインという男が言ったじゃない。この件では、けして動くなって。もし動いたら、ジャンインはあなたの敵になるわ。あなた自身の身も危うくなるのよ。あの男(ひと)はただの職人なんかじゃない」
 香花が叫ぶように言い、光王も頷いた。
「俺だって、あいつがただ者じゃないことくらいは知ってるさ。だが、自分の身可愛さに、他人の不幸を見過ごしにしろってか。使道のやりたい放題にさせておけっていうのか。それとも、何か、お前が俺に使道を殺(や)らせないのは、あの若さまのことを考えてるからか?」
 思いもかけぬ言葉に、香花は眼を見開く。
「違うわ」
 声が、かすかに震える。
 光王が容赦のない声で言った。
「俺の眼を見て、応えろ。本当にそう言い切れるのか?」
「―」

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