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月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】

第8章 すれ違い

 幼い頃、物心つくかつかない頃から、ずっと疑問に思っていた。何故、自分たち庶民だけが不当に虐げられ、搾取され、一部の両班たちだけがのうのうと自分たちから搾り取った金や米を貪っているのか。
 両班は傲慢だ。この世の中に、その存在を許される人間は、自分たちだけだと信じて疑わない。それ以外の民は家畜同様だと見なすのだ。
 彼はその頃から、国王を初めとする王族、両班といった特権階級を憎悪し、民を苦しめるすべての源だと思ってきた。
 コンコンコン、トントントン。
 砧の音が彼の思考を現実に引き戻す。
 とはいえ、幾ら両班がどこまでも傲慢だとしても、あの若さま自身に罪があるわけではない。
―あの方は優しいわ。
 恐らく、香花の言うのは正しいのだろう。あの使道の倅は心優しい質だ。だからこそ、父親に強く出られず逆らえない。心ある男だからこそ、余計に父の所業に悩み、何もできない自分に苛立ち、自己嫌悪に陥ってしまう。
 この頃、香花はどうも様子がおかしい。始終おどおどとして、光王の動向を窺っているというか、一挙手一投足に怯えているようだ。
 以前の、のびやかで天真爛漫だった香花ではない。何より、光王が何か話しかけようとしても、すっと席を立ち、離れていってしまうので取りつく島もなかった。

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