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月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】

第8章 すれ違い

 それが、今夜は久しぶりに香花の方から話しかけてきたので、光王は嬉しくなり、つい、あれこれと喋りたくなった。
 なのに、途中で何か思案に没頭していて、光王の話など、ろくに耳に入っていない様子を見せる。何度呼んでも、顔を上げず、気付きもしない香花の態度に少し傷ついた。女の心を捉えているのがあの甘えた使道の倅だと考え、心がざらついた。
―やけにあの男に入れ込むんだな、さては惚れたのか?
 〝優しい人なのに〟と、まるで我が事のように繰り返す香花に、心ないことをまたしても口走ってしまった。
 だが、あの科白に愕いたのは、実は誰よりも光王自身だった。香花が使道の息子ばかりを庇うことで、何故、自分がここまで心を尖らせ、必要以上に苛立つ必要があるのかと疑問に思った。
 香花への恋情は既に十分自覚していると思っていたが、これは幾ら何でも溺れすぎだ。
 一体、どうしたというのだ。今まで一人の女にここまで溺れたことはなかった、たった一人の女を除いては。

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